緊急寄稿 震災の法的対応
匠総合法律事務所 秋野卓生弁護士
つくり手の間で、資材調達の遅れをはじめとする震災の影響に対してどのような法的対応を取るべきか、不安が広がっています。
そこで、新建ハウジングでは、連載いただいてる匠総合法律事務所代表の秋野卓生弁護士に、その点についての解説を「新建ハウジングプラスワン」4月号でお願いしていましたが、緊急性が高いことから、先行して新建ハウジングWEBで公開することとしました。
以下、秋野弁護士からの寄稿文[その3]です(新建ハウジング編集長・三浦祐成)。
その[1]⇒資材調達の遅れには合意書・契約書の変更で対応を
その[2]⇒緊急寄稿・震災の法的対応 秋野卓生弁護士 その2 資材価格が高騰した場合の対応策
[その3]
不同沈下・建前崩壊時の対応策
液状化現象による不同沈下事故の法律相談
東京湾沿岸の埋立地では、液状化現象による不同沈下事故が発生しています。
道路は凸凹、建物は傾く、と甚大な被害が生じており、実は当法律事務所に今回の地震発生後一番最初にあった法律相談が、「液状化現象により、建物が不同沈下してしまった。この場合、建築会社が是正工事費用を負担しなければならないのか?」というご質問でした。
この点については、まずは基礎設計に瑕疵がないかどうかご確認いただきたいと思います。
基礎設計に瑕疵があり、地震をきっかけとして不具合現象が生じたものであれば、当該建物の建築をした建築会社が瑕疵の補修をする義務を負うことになります。
他方で、もともとの基礎設計に瑕疵はなく、地震によって不具合現象が生じたという場合には、建築会社は瑕疵担保責任を負わないこととなります。
阪神淡路大震災により、床の傾斜等の不具合が発生したトラブルで、神戸地裁平成14年11月29日判決は、被告の本件建物の設計・施工・管理に過失があり、それを原因として、本件建物には阪神・淡路大震災前から被害の一部が発生し、阪神・淡路大震災後に被害が発生・拡大したことが認められるので、被告には損害を賠償する責任がある等として、原告の請求を一部認めています。
ですから、「地震だから免責」とはならないので気をつけましょう。
上棟した建前が倒壊した場合の法的対応
今回の大震災で、上棟した建前が倒壊してしまったという法律相談もありました。
このやり直し費用を住宅会社が負担しなければならないのか?顧客に対して請求して良いのか?という問題です。
契約約款の不可抗力条項
この問題は、請負契約約款により解決する問題です。
民間連合(旧四会連合)工事請負契約約款には以下の条項があります。住宅会社の皆さんが使用されている契約約款にも同じような条項があると思いますので、ご確認下さい。
(1)天災その他自然的または人為的な事象であって、甲乙いずれにもその責めを帰することのできない事由(以下「不可抗力」という。)によって、工事の出来高部分、工事仮説物、工事現場に搬入した工事材料、建築設備の機器(有償支給材料を含む。)または施工用機器について損害が生じたときは、乙は、事実発生後すみやかにその状況を甲に通知する。
(2)本条(1)の損害については、甲、乙および丙が協議して重大なものと認め、かつ、乙が善良な管理者としての注意をしたと認められるものは、甲がこれを負担する。
(3)火災保険、建設工事保険その他損害をてん補するものがあるときは、それらの額を本条(2)の甲の負担額から控除する。
※甲:発注者 乙:請負者 丙:監理者
善良な管理者としての注意を
尽くしていればやり直し費用は顧客負担
今回の大震災は、不可抗力によって発生したものと言えます。
そして、請負人が善良な管理者としての注意をしていたとしても生じてしまった、天災地変による重大な損害と言えるので、民間連合約款ですと、2項により甲=発注者であるお客様に増加した費用分を負担してもらえることになります。
なお、念のため、予定工程を遵守していたこと(金物の設置を予定通りに実施していたかどうか等)をご確認いただきたくお願いします。
金物を本来設置すべきところなのにこれを怠っていたため倒壊が生じたという場合には、善管注意義務を果たしていなかったと評価される可能性があります。
匠総合法律事務所 弁護士・秋野卓生
[その3]おわり。
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