緊急寄稿 震災の法的対応
匠総合法律事務所 秋野卓生弁護士
つくり手の間で、資材調達の遅れをはじめとする震災の影響に対してどのような法的対応を取るべきか、不安が広がっています。
そこで、新建ハウジングでは、連載いただいてる匠総合法律事務所代表の秋野卓生弁護士に、その点についての解説を「新建ハウジングプラスワン」4月号でお願いしていましたが、緊急性が高いことから、先行して新建ハウジングWEBで公開することとしました。
以下、秋野弁護士からの寄稿文[その2]です(新建ハウジング編集長・三浦祐成)。
その[1]⇒資材調達の遅れには合意書・契約書の変更で対応を
[その2]
資材価格が高騰した場合の対応策
①契約の拘束力
もともと契約時に請負契約書に添付し、または顧客に対して提示していた見積書の内容は、請負契約の内容となります。
従って、構造材・住宅設備機器その他の建材について見積書記載金額が契約内容となりますので、この契約内容を変更するためには住宅会社・顧客間の協議が必要です。
顧客サイドも建築予算を設定して請負契約を締結している以上、「値上げ」の要請には応じられないとう顧客も多いのではないか?と考えます。
②一方的に請負代金を増額できるか?
昭和48年頃に発生した第一次石油危機による資材等の値上がりを理由とした請負代金増額の請求に対し、東京高裁昭和56年1月29日判決は、請負人の請求により当然に代金額が増額されるものではないと判示し、あくまで契約当事者間にて誠実に協議を遂げ、適当な増額の措置を定めるほかないと判示しています。
第一次石油危機より今回の大震災のほうがはるかに「経済事情の激変」と言えるような深刻な事態となれば事情変更の法理の適用により一方的に請負代金の増額が認められる判例が出る可能性もありますが、今のところ一方的な代金増額を認める判決を得ることができる可能性は低いのではないか、と考えております。
③これから請負契約を締結する場合は
契約書に特記事項の記載を
請負契約書と特記事項に、「契約締結時に予測できない建材価格の高騰を受け、工事請負代金が明らかに不適当であると認められるときは請負代金を変更する事ができる」という条項を設けることは、検討の余地があると考えます。
もっとも、具体的にどの程度の建材価格の高騰があった場合に「工事請負代金が明らかに不適当であると認められる」か、という点については判断が難しいところです。
この判断の困難な点を回避するために、
「契約書添付の見積書記載の各項目の建材単価が●倍となった場合には、
請負代金変更の協議を行う」
という条項も検討の余地があります。
もっとも、こういった条項を設けることは顧客にも予算の上限がありますので、顧客との対応上、現実的には難しい側面もあるでしょう。
今回の事態について顧客によく説明を尽くし、双方十分の理解の上で請負契約を締結することが望まれると思います。
弁護士法人・匠総合法律事務所 弁護士・秋野卓生
[その2]おわり。[その3]につづく。
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