森亨介
Eco is Money 5回目は、色々な人に聞かれることの多い「遮熱」についてです。熱の移動には輻射、対流、伝導の3種類があり、輻射熱を遮る「遮熱」という考え方は、取り組む工務店も多くなっていると感じておりますが、果たして、何が効果的で、何が効果的ではないのか、いまひとつ分かりにくいというのが正直な感想ではないかと思います。
今回はそんな遮熱について、数値、そして金額で表すことを一緒に考えてみたいと思います。
まず、多くの方に非常に誤解されているのが、輻射熱は大きく分けて2種類あるということです。一つは太陽から受ける日射(高温、短波長)、もう一つは常温での輻射(低温、長波長)です。冬場の放射冷却といわれるものが後者になります。遮熱材料で反射率97%などといわれているものも、後者の常温での反射率のことを指しております。
これを踏まえ、2つの壁のモデルを比較してみたいと思います。一つは窯業系サイディングに通気層、構造用合板+グラスウール100mmという構造です。もう一つは通気層部分に遮熱材(厚8mm、両面アルミ箔)をプラスしたものです。さらに、サイディングの色を白の場合と黒の場合で考えてみました。
結論からすると、マトリクスに表したように、外壁が白く、遮熱層のある外壁モデルの冷房費が一番安くなり、外壁が黒く、遮熱層のない外壁モデルの冷房費が高くなります。
外壁が黒く、遮熱層のない建物を基準に考えると、外壁を白くすることで、取得熱は約3分の1になります。遮熱層を入れることで取得熱は約4分の1になります。組み合わせることで取得熱は約12分の1となります。
一つ考えていただきたいのが、外壁の色を変えることにお金はかからないのに対し、遮熱層を入れることに対しては、相応のお金がかかるということです。外壁が黒という前提であれば、遮熱層あり・なしの差額は50年で17万7000円となり、長期的に見て元が取れるのかもしれませんが、外壁が白という前提で見ると、差額を50年分計算してみても5万3650円と、費用対効果があるのかないのかよく分からない結果となります。
物体間の輻射熱移動量は絶対温度の4乗の差に比例します。つまり、温度差のなるべく大きい部位間で遮熱の工夫をした方がよく、太陽と外壁表面以上の温度差が開く部位などないことから、遮熱という考えを建物に取り入れるのであれば、仕上げ面で行う以上の効果を壁体内や屋根内の遮熱層で得ることは非常に難しいと言えます。
蒸暑地で日照時間の多い地域であればあるほど、屋根や外壁の色を明るくすることが、何よりの遮熱工法ですね。白い外壁には、取得熱を抑えるという効果のほかにも、良いところがあり、夜間の放射冷却量を比べると、黒い外壁とほぼ変わらないという特性を持っています。つまり、意外と冷えやすいということです。
さて、いつものように計算過程をお伝えしたいと思いますが、ボリュームの関係上少し端折り、白く、遮熱層のある壁のみを解説します。条件は岐阜県岐阜市の2015年6月1日~9月30日の午後1時から午後6時までで、日射の当たった合計318時間を対象にします。西面外壁面積は36m2で室温は25℃とします。
まず日射の当たる外壁の温度がとても大切になってきます。相当外気温度といい、白い外壁で、外気温28℃の所、平均330W/m2の日射量が当たると外壁表面は30.6℃となります。遮熱層のある外壁のU値が0.245W/m2Kなので、318時間分の伝導熱量は0.245W/m2K×(30.6-25)℃×36m2×318h=15.7KWhとなります。定常計算を行い、遮熱層室内側温度を29.9℃とすると、構造用合板面への輻射熱量は平行2平面間の有効放射率計算式(長いので省略)より2.3W/m2と導き出されます。期間熱取得は2.3W/m2×318h×36m2=26.3kWhで、伝導熱と合わせると合計26.3kWh+15.7kWh=42.0kWhの熱量が室内に流れ込む計算となります。冷房COP3.0のエアコンで冷房した場合の電気代は350円となり、岐阜県岐阜市において6月から9月までの期間で、西日が差す時間の冷房費が算出されました。ちなみに今回の計算は、壁体内遮熱層の効果が最大になるような条件であえて計算しております。
とかく過大な期待を持たれたり、誤解を受けたりすることの多いのが「遮熱」です。過大な期待や誤解を生む原因は、建築技術者の不勉強に尽きます。アルミ箔を貼ったパネルをハロゲンヒーターの前にかざすと、いかにも熱を弾いているという印象を受けますし、銀合羽に身を包み、炎に突っ込んでいく消防士さんを想像すると、良いイメージが沸き起こるのも分かります。しかし、建物の屋根や壁とそれらは使われる状況が違います。日射のエネルギーと遠赤外線のヒーターはエネルギーの種類が違います。
本当に良いものをお客様に提供しようとするのであれば、自分でも効果のよく分からない物に頼るのではなく、しっかりと勉強し、基本である断熱から知識と技術を積み上げていくのが王道ではないでしょうか。そこまで行きついて、更に先へとなった時に、遮熱や蓄熱、換気などの設備について取り組んで行くのが良いと思います。
森 亨介 kosuke mori 凰(おおとり)建設 専務 岐阜県内を中心に断熱性能にこだわった住宅を建設する凰建設で、技術・営業面を担う。理想の暮らしから性能数値を逆算する新しい住宅シミュレーションソフト「ebfit!」を独力で開発。名刺代わりに良い家を作る仲間集めに奔走中。
凰建設HP http://www.ohtori.net/
ebfit! HP http://ebfit.jimdo.com/
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