森亨介
違いの分からないものは同じ土俵に乗せてみる。前回のコラムで書かせていただきましたが、最も重要であるにも関わらず、何かと同じ土俵に乗ることの非常に少ないエネルギーがあります。それは太陽のエネルギーです。
住宅に太陽のエネルギーを取り入れることを考えた際、太陽光発電、太陽熱温水器、ダイレクトゲインによる日射熱、照明エネルギーの削減等が考えられますが、今回は太陽光発電、太陽熱温水器、日射取得熱について考えてみたいと思います。
今回も、コラムタイトル「ECO is MONEY」の通り、太陽の恵みをお金で表すことを考えて行きたいと思います。
太陽の光が運んでくるエネルギーは冬の南面(平均)で330W/m2にも上ります。透過率70%(3層ガラス)で3m2(普通の掃き出しくらい)のガラスがそこにあれば出力700Wの暖房器具を運転しているのと同じくらいの熱量が窓を通して入って来てくれます。岐阜市における冬の日照時間は150時間程ですので普通の掃き出し窓が、0.7kW×150h×25円/kWh≒2600円/月(電熱ヒーター換算)のお金を稼いでくれると言っても良いかもしれません。
それを踏まえて、さまざまな暖房器具と窓を「同じ土俵に」乗せてあげた表を作ってみました。3.9kWの暖房出力を出すために必要な設備量という土俵を作り、ガスストーブ、エアコン、電熱ヒーター、窓を乗せると以下の通りとなります。初期投資、1カ月の燃料費、買い替えごとの設備投資量を積算したら30年後には累計でこのくらいお金がかかりますという表になります。
樹脂窓をどのように考えて計算したのかだけ、お伝えさせていただきます。まず、冬の南面日射熱量ですが、330W/m2×ガラス面積3.36m2×透過率70%×サッシ数5本×1か月の日照時間150h=582kWh/月という計算をして、1カ月にこのサッシ5本から入ってくる熱量が582kWhであることを算出します。
次に、このサッシが窓ではなく、壁だった場合の熱損失を差し引かないとフェアではありませんので、窓から逃げる熱を、窓U値0.79W/m2k×サッシ面積3.63m2×1カ月の暖房時平均温度差15℃×1か月の時間744h×サッシ本数5本=160kWhと算出します。
壁だった場合のU値が0.3W/m2・Kとして160kWh÷0.79W/m2・K×0.3W/m2・K=60.7kWhとなりますので、先ほど算出した取得熱582kWhから、熱損失の差額160kWh-60.7kWh=99.3kWhを差し引くと482.7kWhです。
それを再度日照時間で割り戻すと482.7kWh÷150h≒3.2kWとなり、日射があるうちは3kW程度の暖房をしている設備と考えられる訳ですね。他の設備は1カ月稼働し続けた場合のランニングコストを計算しているのに対し、窓は日射のある時間だけの暖房で考えるという点では、少しアンフェアな表かもしれませんが、ランニングコストの掛からない暖房であることが、お客様に伝わることが大切であると思いますので、ご容赦くださいませ。
太陽の恵みをエネルギーに変える設備としては、太陽光発電が一般的ですが、もう一つ、太陽熱温水器という設備もあります。こちらも同じ土俵に乗せてあげることで、分かり易く比較してお伝えすることができます。集熱面積4m2の太陽熱温水器が1年間に集めることのできるエネルギー1500kWhに合わせて太陽光発電システムを乗せた場合の比較となります。
気を付けていただきたいのは、太陽熱温水器が生み出すkWhは熱量としての単位ですが、太陽光発電のkWhは電力量の単位です。
太陽光発電の変換効率はどんどん良くなっておりますが、それでも今現在、その2倍ほどの効率を誇るのが、太陽熱温水器です。同じエネルギーで考えた時に、効率が倍なので、設置面積は半分で済みます。そして、初期投資も安く済み、仕組みがシンプルな分、メンテナンスいらずで長持ちです。
家庭で使われるエネルギーのうち、最も大きいものは照明でも空調でもなく、給湯です。お湯をいかに効率よく作るか、また効率よく使うかということを考えると、とても優秀な設備です。
太陽光発電の電力をヒートポンプにつないで、エネルギー効率を一気に逆転させることもできますが(効率1/2×APF3.0=効率3/2)、設備の初期投資金額が大きくなり、回収年月はさらに長くなってしまうため、トータルでかかる金額で比べると、やはり太陽熱温水器が得になりそうです。
ただ、ご存知のように日本では太陽熱温水器の普及はあまり進んでおりません。電気のように何にでも使えるエネルギーを生み出すのではなく、お湯を作るだけというシンプルな設備であるため、用途が限られます。エコキュートや電気温水器との相性も良くありません。湯が沸く時間も日が傾くまでなどと、なかなか制限が多いです。(貯湯式の便利なものもありますが)電気のように使わない分は売れるということもありません。手軽さという点では太陽光発電がやはり便利だと思います。
どちらを選ばれるのか、最終的には住まわれるお客様ですが、お客様が判断しやすいように、分かりやすく提示をしてあげるのは、私たち建築業者の務めだと思います。そして、そのために、私たちは自分でも色々なことを学ばねばいけないのだと思います。
森 亨介 kosuke mori 凰(おおとり)建設 専務 岐阜県内を中心に断熱性能にこだわった住宅を建設する凰建設で、技術・営業面を担う。理想の暮らしから性能数値を逆算する新しい住宅シミュレーションソフト「ebfit!」を独力で開発。名刺代わりに良い家を作る仲間集めに奔走中。
凰建設HP http://www.ohtori.net/
ebfit! HP http://ebfit.jimdo.com/
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