高性能住宅への着手
会社運営が軌道に乗りかけたころ、東日本大震災が発生しました。震災は日本人のエネルギーに対する価値観を変革させ、より暖房エネルギーを少なくする必要性を突き付けました。我々も時代要求に従い、単価が上がることはお構いなしに、断熱性能を強化させました。
結果として非常にお客様の満足度が高くなり、経営は安定しました。
高性能化を進める中で、前述の西方先生や、また松尾和也さんらエコハウスのトッププレーヤーと交流が深くなり、今年からYKKAPのセミナー講師を任されることにもつながりました(高断熱を工務店の武器にするノウハウも別の回にて)。
さて最後に、私の会社の経営観について触れてみたいと思います。
業界の現状と経営観
小さな工務店を運営するにあたっては、定説として間違いのない理論と方法を忠実にこなすことが大事だと考えます。私の経営の核は弱者の戦略である「ランチェスター経営」、建築設計の思想は「レーモンドの5原則」。そして温熱に関しては西方流が合理的で間違いがないと考えています。
必要な情報は世の中にすでにあふれていて、そこでは「教科書通り」に経営することが一番だと考えています。
会社運営についても極めてシンプルです。
「優秀なスタッフを採用し、仕事を通じて成長してもらうことでさらに力が増すことになり、良質な住宅と良質な顧客が世の中に創造されていく。それを情報発信で知らしめることで、さらに顧客が吸い寄せられる」
この好循環をつくり上げることに尽きます。
三浦社長の唱えた行列のできる工務店3要素の充実こそが「工務店の王道」だと思います。本誌での連載を通じて私なりの極意をひも解いて公開して欲しいということですが、商売上の秘訣を同業者におおっぴらにしてみても、私にとってメリットはありません。それでも引き受けたのには、全国の工務店を鼓舞したい気持ちがあったからです。
独立する前は、地域工務店というのは非常に建築の知識があり強い存在だと思っていました。しかし現実は、資本のある量産ハウスメーカーやローコストメーカーに市場を侵食され、苦労している。それはひとえに工務店が非力であるからで、工務店に原因があるわけです。
工務店である前に一企業としてまっとうでなければならないのに、経営が近代的ではない。なのに、技術におぼれて狭い見識で留まっている。そして、貧乏であることに慣れている会社があまりにも多い。自分の頭で考えることをせず人に依存するから、FCやコンサルティング会社のいい餌に成り下がっている。
日本社会は少子高齢化で縮小し、家余りは加速しています。量から質への転換期で、主役にならねばならないのが「まっとうな家」をつくれる地域の工務店だと思います。ゆでガエル寸前の地域工務店を変革させて、ともに量産住宅という巨人を駆逐することが、私の夢なのです。
「工務店の王道」は容易ではありません。突き進むには大いに汗をかくでしょう。誰しもが到達できるものではないかもしれません。しかし、一人でも多くの変革者が全国に現れることを期待します。
これからの連載のご愛読をよろしくお願いいたします。
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情報発信の主力となるオーガニックスタジオ新潟のホームページ。相模氏やスタッフのブログが充実
相模 稔 さがみ・みのる
1967年新潟市生まれ。青山学院大学経済部卒。住宅FC本部、住宅営業を経て2009年、オーガニックスタジオ新潟創業。温熱知識の活用、工務店の経営戦略で注目されている。
新潟市西区 TEL:025・201・6611