森亨介
ECO is MONEY 2回目は、性能をお金に換算する方法をお伝えします。
住宅性能が大切と言われて久しいですが、Q値やUA値がそもそも何のためにあるのかという問いに、明確に信念を持って答えられる方はそう多くはないと感じます。数値には色々な使い方がありますが、私はこれらの数値たちにはお客様に、生活する際に必要な冷暖房費をお伝えするという役割もあるのだと考えております。
今はUA値がよく使われますが、「お金に換算」と考えると、Q値の方がいい仕事をしてくれて少し便利です。
Q値の単位はW/m2 Kで、温度差1℃、床面積1m2あたりどのくらいの熱が逃げるかという数字です。例えば、Q値1.0 W/m2 Kで100m2の家があったとして、暖房時に外気温より10℃高い室内気温を維持しようとすると、
1W/m2 K×100m2×10℃=1000W(1kW)
1000Wの熱が必要です。つまり1000Wのドライヤーを付けっ放しにすれば家中の温度が10℃上がる家ということですね。
ドライヤーなどの電熱ヒーター製品で空気を温めると、使用電力と発生熱量の割合はほぼ1:1なので、1kWの消費電力を24時間(h)使い続けると1kW×24h=24kWhの電気を使います。2016年現在の電気料金は大体25円/kWhなので、25円/kWh×24kWh=600円となり、この家を1日中、外気温+10℃に暖房するのに必要な金額は600円と算出することができます。
電熱ヒーターよりも効率の良い暖房、例えば暖房時COP4.0のエアコンを使用して暖房したとすると、暖房費は4分の1に削減することができ、600円/4.0=150円の暖房費で済む計算になります。
Q値が2.0になれば暖房費も倍の300円、3.0になれば450円と、性能が悪くなると暖房費も増えていきます。
というように、性能数値は冷暖房費に置き換えることができるのですが、問題はそれをどのようにお客様に理解してもらいやすくできるかということです。
私は、お客様や、住宅性能についてこれから勉強していかれる実務者に、家を建てる際、性能の違いがどのくらい冷暖房費に影響するのかを計算するワークをやってもらいます。
希望の面積を入れ、Q値ごとにシートに従って計算を進めていくと、建物居住期間中の冷暖房費の違いが分かるというものです。例題では岐阜市で120m2の家を建てて50年住んだ場合、Q値が3.5から1.5まで下がると、334万円の差が出てくることが分かります。
つまり、この条件で家を建てる方であれば、省エネに対する投資額が334万円以下であるならば、やった方が得になり、さらに「暖かく、涼しく、快適に」過ごせるということになります。実際の冷暖房費は日照や内部発熱など、様々な要素に左右されますので、もう少し違った値になってきますが、お客様にイメージとしてお伝えする分には、これで十分だと思います。
少しシートの解説をさせていただきます。計算の目的は、Q値(W/m2K)を電力料金の単位である(kWh)まで変換することです。単位に注目すると、何を掛ければよいのかがわかります。
まずワット(W)をキロワットアワー(kWh)にするためには、キロ(K)とアワー(h)が必要です。1000mが1kmになるように、キロ(k)とは1000倍のことです。アワー(h)は時間です。分母の面積(m2)は単純に建物の床面積です。そして温度差(Kまたは℃)が必要な要素です。
面積(m2 )と1000倍(W→kW)は理解しやすいと思います。温度差(Kまたは℃)と時間(h)ってどうやったら分かるの?ということですが、簡単に調べる方法としては、「デグリーデー(℃・日)」という指標を使います。今は検索で「デグリーデー ○○(←家の建つ地域)」と入れれば、大概分かりますので、それを1日=24hで換算すれば(℃・h)が出てきます。暖房時と冷房時で分けて表記されていることが多いですので、通年の光熱費を出す場合は、両方計算して合計する必要があります。ワークシートではこの部分はこちらで計算しておき、岐阜市ならば55652(℃・h)という定数として計算してもらいます。
ここまで計算すると建物に投入、もしくは取り除かなえればいけない熱量(kWh)が算出されます。あとは、冷暖房設備がその熱量を発生させるためにどれだけお金を使うかということが分かれば冷暖房費を算出できます。
エアコンを例にとると、COPやAPFという数値があり、1(kWh)の電力に対し、どれだけの熱量(kWh)を発生させられるかが表示されております。APF5.0のエアコンを使った場合、1(kWh)の電力で5(kWh)の熱量を発生させられるということになりますので、25円/kWh÷5.0で、熱量(kWh)当たりの電気料金は5円/kWhということになります。それを「5倍にする」と表記しております。
あとは、その家にどれだけの期間住むかという想定をかけ合わせればでき上がりです。30代の夫婦が終の棲家として家を建てる場合、50年という想定が妥当なところだと思います。
説明が長くなりましたが、このように、性能数値というものをよく理解したうえで、お客様に分かりやすくお伝えしていくことは、住宅に携わる実務者として永遠に取り組んでいかなければいけないテーマではないでしょうか。
森 亨介 kosuke mori 凰(おおとり)建設 専務 岐阜県内を中心に断熱性能にこだわった住宅を建設する凰建設で、技術・営業面を担う。理想の暮らしから性能数値を逆算する新しい住宅シミュレーションソフト「ebfit!」を独力で開発。名刺代わりに良い家を作る仲間集めに奔走中。
凰建設HP http://www.ohtori.net/
ebfit! HP http://ebfit.jimdo.com/
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