森亨介
2020年に義務化が予定されている省エネルギー基準。猶予期間ともいえる2016年現在、住宅に関わる実務者の皆様は家の性能とどう向き合っていくべきか、大変苦労をされていることと思います。
高性能住宅に取り組んでいくということを考えた時、特に中小工務店では、大きなハードルが2つ待ち構えているのではないでしょうか。それは「自分たちで理解すること」のハードルと、「お客様に理解していただくこと」のハードルです。自分たちで理解するだけでも精一杯なのに、それをどうやったら家を建てるお客様に伝えられるのだろうか――多くの方にとって、大きな悩みの種だと思います。
性能住宅に取り組んでおられる方、またこれから取り組もうとされる方は、大きく分けて2つの道を歩んでいかれるのではないかと思います。自分が理解することを優先する「知識優先ルート」と、お客様に理解していただくことを優先する「伝える力ルート」です。すべてにおいて当てはまるとは言えませんが、様々な勉強会に参加し、オリジナルの断熱仕様を作られておられるような方は、知識優先ルート。FCなどに参加して、営業ツールなどを積極的に取り入れる方は伝える力優先ルートだとイメージしていただければ何となくお分かりいただけるのではないでしょうか。
どちらが良い、悪いではありません。目指す高みは同じです。理論理屈をよく分かったうえで、お客様にもわかりやすく説明できることです。是非、途中で満足してしまったり、諦めてしまったりせずに、ゴールを目指していきたいものです。
このコラムでは、高性能な住宅がどのようにしたらお客様によく伝わるのかということを、一緒に考えて行きたいと思います。なので、ある意味「伝える力」寄りに話を進めていくつもりでおります。
高性能住宅がそもそも何のために必要であるのかということから考えてみると、大きくは地球環境のため、身近なところでいえば、快適で冷暖房費のかからない暮らしのためということが言えます。最終的には、社会全体の意識が向上し、地球環境のために性能の高い住宅が必要だと理解していただけることが理想だと思いますが、現実を見てみると、やはり住まい手にとって身近な「快適で経済的であること」が、より大きなメリットになるのではないでしょうか。
住宅の性能はQ値、UA値、C値、ηA値、ψ値など、各数値で表すことができます。私たちは、それらの数値を熱がどのくらい逃げるのか、取得できるのか、隙間がどのくらい大きいのかを知るための数字だと習います。では、お客様にはそれをどのように説明をすればよいのでしょうか。
私はお客様の理解を考えた時に、隙間をハガキの大きさで例えたりすることがベストではないような気がします。ハガキ1枚分の隙間というよりも、このC値なら月に3000円分の暖房費が余計にかかります。と言われた方がお客様はC値を下げることに対しての利点を感じやすいのではないでしょうか。
他の値も同じで、数値で表せられるものは、最終的にお金に換算して表示することができます。お金も1つの数字だからです。性能住宅のメリットをお金に換算してお客様に伝える方法を、皆さんと一緒に考えて行きたいと思います。このコラムのタイトル「ECO is MONEY」にはそのような思いを込めました。
例えば太陽の日差しが冬に、南の掃き出しに当ててくれる熱量をエアコン暖房費に換算すると、1カ月で約2000円分になります(岐阜市の場合)。間取りの打ち合わせ中でも、完成見学会やモデルハウスの案内でも、性能数値をお金にまで換算してお話しすることができれば、お客様からすると「難しいことをわかりやすく説明してくれる人」になれるのではないかと思います。
目指せ性能住宅の伝道師ということで、これからこのコラムを担当させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
森 亨介 kosuke mori 凰(おおとり)建設 専務 岐阜県内を中心に断熱性能にこだわった住宅を建設する凰建設で、技術・営業面を担う。理想の暮らしから性能数値を逆算する新しい住宅シミュレーションソフト「ebfit!」を独力で開発。名刺代わりに良い家を作る仲間集めに奔走中。
凰建設HP http://www.ohtori.net/
ebfit! HP http://ebfit.jimdo.com/
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