みやじまなおみ
先日、東京・豊洲のららぽーとで昭和にタイムスリップしたような駄菓子屋さんを発見。切り株に腰かけたリスとうさぎのイラストがなつかしい「クッピーラムネ」に、ピィ~と音が鳴る「フエラムネ」、たばこ風の箱が自分を大人にしてくれた「タバコチョコレート」、傘型の「パラソルチョコレート」などなど、昭和感が満載! しばしレトロな気分に浸り、何を買おうか選んでいると、子どもの私がよみがえってきました。
少ないお小遣いでどれを買おうか真剣に悩んだ末に、タコ糸の先に三角すいの形をした飴がついている駄菓子や、当たりのついたアイス「ホームランバー」などを幸せな気持ちで食べている私が、古い映画を見ているように再生されます。
パッケージをながめていると、なつかしのCMソングまで聴こえてきました。「マーブルマーブルマーブルマーブルマーブルチョコレート」「ライオネ~スコーヒーキャ~ンディー、広がるコーヒーの~味」「チャオチャオッとなめっちゃお」。マルセル・プルーストの代表作『失われた時を求めて』の文中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸し、その香りと味をきっかけにスイッチが入り、幼年時代をまざまざと思い出す…「プルースト効果」の感覚です。
そして、お菓子といえばなぜか浮かんでくるのが「タンス」。理由は、ガムに付いている包み紙のシールです。当時は「うつし絵シール」と呼んでいたような…..爪でこすって、透明のフィルムをはがすとアニメのキャラクターなどが移っている転写シール。それを兄妹でタンスに貼っていたのです。
みなさんもご存知のように、一度ハマると止められないのが子ども。最初は家のあちこちに貼って怒られていましたが、母から「子ども用のタンスのみOK」のお許しをもらったのをいいことに、引き出しから側面までめちゃくちゃに貼りつけ、隙間がなくなってきたら、ほかのシールに重ねてでも貼って、とうとう木の部分が見えなくなるほどに。結局、シールでまるっとラッピングしてしまいました。
ただ、うちは両親ともおおらかだったのか、父は父で、柱に3人の子どもたちの背の高さを記録していました。あとで消せるようにと鉛筆を使っていたと思いますが、ラインの横には年月日と名前もしっかり書いてあって、子どもにとっては大事な思い出。家の中に成長の過程を残してくれた両親に感謝です。
その後、東京に引っ越すことが決まり、思い出の柱とはお別れ。小さい自分ともさよならするようで、けっこう名残り惜しかったですね。タンスは新居に持って行くため、赤いタータンチェックの壁紙を使って母がイメチェン・リメイクしてくれました。
ところが、新居に越して間もないある日のこと。学校から帰って、トイレを開けたらびっくり!
トイレの白い壁いっぱいに、大小さまざまな「てんとう虫」がいたのです…..もちろん“シール”ですが、初めのうちは「虫がいっぱい」になじめず、トイレに入るたびに心臓がドキッとしました。一方の母は、自分が手がけた模様替えに満足そう。子どもたちのシール好きは、実は母のDNAを受け継いだのかもしれません。
駄菓子からトイレのてんとう虫まで、ずいぶん話が飛んでしまいましたが、お菓子をとっかかりに昔の家の記憶が次々出てきて、亡くなった父や母とも再会することができました。私の足元には細長い根っこが無数にのびていて、きっかけさえあれば、いつでも遠い思い出とつながれるようです。
みやじま・なおみ miyajima naomi 主婦ライター。有名人・著名人のインタビュー原稿を請負うほか、編集ライターとして40冊近い書籍の執筆に携わる。神奈川県横浜市の一戸建てで、家族5人、昭和40年代を過ごす。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。