40年黒字経営を続ける
地域スーパー・福島屋 福島徹会長(64)インタビュー
食の根幹は日常にあると、地域スーパー・福島屋(本店:東京都羽村市)会長の福島徹さんはいう。おいしい食材でつくる食卓を、何気ない会話とともに家族で囲み『いいもんだな』と感じる生活。だが、経済効率優先と情報過多の市場は「虚」が横行し、そんな普通の心地よさが見えにくい。住宅業界が直面する問題も同じだ。日々の何気ないひと時を整える「編集力」こそ、いま最も求められていると話す福島さん。それは工務店に求められているものと重なる。福島さんに、福島屋の戦略を聞いた。
創業以来、40年以上も黒字経営を続ける東京・羽村市の地域スーパー。NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」、テレビ東京「カンブリア宮殿」などで取りあげられ、各方面から注目を集める。スーパー、レストラン、花きショップなど東京都内で10店舗を展開。
“おいしい食卓を囲む時間が心地いい”
消費者がそう気付いてこそ商品は売れる
「僕らは『店』をつくる。そこに並べる商品がコンテンツ。でも畑で野菜をつくるわけでも、養豚でお肉をつくるわけでもない。では僕らのスキルは何かと考えたら、編集力だ、と。『つくる』『選ぶ』『整える』というやり繰りのうち、整えるところがライフスタイルだったり、ビジネススタイルだったり。そこが決め手だと思うんです」
福島屋は1971年の創業以来、40年以上連続で黒字経営を続ける地域スーパーだ。並みいる大手量販店との競争を勝ち抜いてきた理由の一つは、会長の福島さんが自ら全国を飛び回り、吟味を重ねて選んだ「絶品」の品ぞろえ。素材や製法にこだわったお米や野菜、卵、調味料、お菓子など、生産者から直接仕入れる商品が多くを占める。
生産者との連携は独自のヒット商品も生む。たとえば大根だ。
一反歩の畑から5000本の大根が採れるとしたら、通常、店頭に並ぶのは3000本。残る2000本は曲がりやキズで流通にのらない、2次加工しても二束三文。だが、そんな「余りもの」でも、無農薬や有機といった栽培法でトレーサビリティーを可能にしたとたん価値が付く。食味がよくなるうえ、商品に一貫した世界観が備わるからだ。
「余っていた2000本が漬物になり、切り干しになる。しかもそれが流通品の3000本より売上がいい。無駄が少なくなり、環境に寄与できて、みんないい気持ちで生産や購買、生活ができる、と。そんなところに人が集まってくれるようになってきました」
「福島塾」でノウハウを伝授 必要なソフトを協働してつくる
生産者・小売業者・消費者が三位一体でよくなるビジネス。福島さんは培ってきた経営ノウハウを地方のスーパーやメーカーに惜しげもなく伝授、勉強会「福島塾」がその受け皿だ。建築家や不動産会社もメンバーに加わり、全国から約50社が参加する。
そこで同社の商品やハウツーをそっくり流すだけなら、話は簡単だ。が、それでは大手流通の手法と同様、画一化のそしりを免れない。基本的なインフラは福島屋のノウハウを使うにしても、店がまえや売り場のレイアウト、棚の陳列、現場のオペレーションは個々の会社が自立的に行うべき――。そのために必要なソフトを「Fデザイン」と銘打った。福島塾ではそれをメンバーが協働して構築する。福島さんのいう「編集力」だ。
「キュウリを漬物にして売っていこうというとき、じゃあそのキュウリのつくられ方やロケーションを本当にわかっているのか、と。そこが編集の重要なポイント。なぜなら僕らが編集しながら何を掘り出すのかといえば、おいしさなんです。そして、おいしさは表現しにくい。伝えようとしても伝わらない。それぞれの価値観ですから」
「編集」とは、言葉を換えれば価値観の定義付けだ。もっといえば店のつくり方そのもの。福島さん曰く、それは自己流の定義で構わない。だが、はりぼての定義はあっという間に埋没する。見た目が立派な店というだけなら、市場に溢れ返っているからだ。漬物にするキュウリのロケーションを知る意味は、そこにある。
食品業界もまた乱れていると、福島さんはいう。経済効率優先で情報過多。消費者はどこへ行けば安全でおいしい食に出会えるのかわからず、一方で自ら調べて工夫したり、吟味したりすることもない。ある意味ではみなミーハーで不明。ゆえにどう伝えるかが問題となり、編集力がものをいう。
「食の根幹は日常にある。提示するスタイルが日常とかけ離れてはいけない。日々の食がしっかりしていれば、旦那さんも帰ってくる頻度が多くなる。それには福島屋みたいな店が近くにあって、セレクトされた納豆や大根が買えて、それで食卓がつくれて、贅沢ではないけれど夫婦で『おいしいね』『いいもんだね』と。そんな日々の生活を整える編集力が、事業者に付いていかないといけない」
そのため同社ではHPや冊子、動画などの広報ツールだけでなく、売り場のレイアウトや商品の配置も、世界観を伝えるための重要なメディアだ。効率よい買い物動線ができればいいわけではない。最終的には同社との接触を通じ、顧客自身が目利きのスキルを身に付け、よいものを選べるようにすることがテーマとなる。
売れない商品が売れる 参加者が自ら選ぶことがカギ
「おいしさはよく噛みしめるとわかるけれど、表面ではわからない。だからはりぼての食も多くなる。僕らはそこを真面目に追求していくなか、じゃあどうやって伝えようかと。広報や店頭だけでは伝わらないので、それを補完する講座を5年前に設けました」
講座とは「美味しい時間」と題した90分の料理講座で、定員はおおむね10人~30人。羽村本店のほか各店でほぼ毎日開催している。ユニークなのは「教えない講座」であること。もちろん売り込みもない。あくまで顧客に選ぶ力をつけてもらうことが主眼。だがそこで、通常売れない商品が売れていく。
なかでも人気のカリキュラムが「日本一の朝ごはん」だ。ご飯を炊き、みそ汁をつくり、あとはお新香と鮭、海苔、卵――参加者に道具や食材・調味料を選んでもらい、社員が調理して、みんなで食べて終了する。何ら解説はない。ただそれだけの講座だが、使った道具や食材・調味料が売れるのだ。
「卵かけご飯の場合、1個100円する卵が売れていく。お醤油も1本1000円。普通のスーパーなら売れにくい商品が売れていきます。お客さんは自分でできる意識を持って帰るから、買った商品を使って、たいていはその日の夕飯か翌日の朝ごはんで実際につくってみるわけです」
食と同様、住の根幹もまた日常にある。かつ、業界が疲弊しているのも同じだ。福島さん自身数回の家づくりを経験したが、満足のいく結果は得られなかったと話す。
「たとえば無垢の木のよさといっても、素人にはわからない。面倒だから自分で調べたりもしない。何年も住んで手入れすれば、後からよかったと思うだろうけれど、そこをどう伝えているのかといえば、住宅展示場くらいしかコンタクトの場がない、と。ただ、そこをしっかり編集し、日常のよさを伝えないといけないという方向に世の中が向いてきたのは確か。今後は住宅業界ともいいコラボレーションをしていきたいですね」
12月17日開催の「住宅産業大予測フォーラム」に福島会長が特別講師として登壇します。詳しくはこちら。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。