「佐藤さんねえ、うちのモデルハウスに入ってくるお客さんを見ていると、おもしろいですよ」とおっしゃるのは、総合住宅展示場にちょっと変わったモデルハウスを建てた、兵庫県城崎温泉の近く、豊岡市の工務店(編集部注:里やま工房)の社長(編集部注:池口善啓社長)。
「みんな入り口でウロウロしているんです。そして玄関ドアを開けて入ってくると、すぐ私どものお客さんかどうかがわかります。入ってきてすぐ、黙ってじっと見渡して“ほう~”とか“ふ~ん”とか言って興味深そうに見渡している人はお客さんです。入るなり、こちらと目が合うと慌てたように出て行くお客さんもいます。何か違う、そう思うのでしょうね。(略)」
この会社のモデルハウスは、古い酒屋を解体した時の材料をもとに新築した。まるで古民家再生のような住宅。それを総合住宅展示場に、である。日本中にどれだけの総合展示場があるのかわからないが、このような住宅が建つ展示場はたぶんここだけだろう。
この工務店の「コンセプトブック」の最初のページに、こんなくだりがある。それはこの工務店の社長が、京都の田舎の茅葺きの古民家に住むドイツ人音楽家夫婦の暮らしを、本屋の店舗で読んだ時のショックから始まる。
「自分が歩んできた人生の中で、これほど大きなカルチャーショックを受けたことはありませんでした。私は但馬の地に暮らしながら、長い間自分の足元を見つめていなかったこと、但馬の人々の暮らしに全く関心がなかったことに気づいたのです。……そのことをきっかけに、都会にはない田舎の風景と暮らしがどんどん見えてきました。古民家に住み続ける意義についても鮮明に理解できるようになったのです」
ここからこの社長の家づくりの思想がはっきり固まり、今のモデルハウスにつながった。
このモデルハウスでは、常にこの場所らしいイベントが行われている。例えば生花の先生と弟子たちの展覧会、書道の展覧会、お茶(茶道)の教室――。ここでは、このようなイベントがよく似合うのだ。和服を着た奥様たちが期間中100人以上訪れ、向かいのモデルハウスの営業マンが入り口付近に立って、来られるお客様にあいさつをする。
(略)普通なら大手ハウスメーカーに来たお客様が、ついでにこちらも見に来てくれることを、期待するのではないだろうか。しかしここでは逆である。この工務店に来たお客様を、大手がなんとか自分たちのモデルハウスに呼び込もうと一生懸命なのである。
この工務店の完成見学会はチラシを5万枚ほどまき、後はホームページで案内するだけなのだが、常に100組以上、ときには200組以上の来場者がある。人口5万人ほどの町なのに、である。社歴はまだ10年しか経っていないのに、すでに1年先までの受注がほぼ決まっている。
「住宅マーケティングの教科書-建て主の実例調査から見えてきた『らしさ』がつくる『新・価値創造』戦略」より
※里やま工房は「新・価値創造」戦略構築セミナーにゲスト工務店として参加します。
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