安成さんが昭和63年、32歳で先代から会社を引き継いで27年になった。彼ほど「地域住宅会社(工務店)のビジネスモデル」を一所懸命考え、一つの形を作った経営者はいないのではないだろうか。
「地域循環」と一口で言うが地域の木を使い、地域のために、地域の人たちと一緒になってビジネスの形を作り上げた工務店業界最初の人ではないだろうか。安成工務店の使用する木は大分県上津江村にある「津江杉」が大半である。地元の材木会社トライウッドが伐採し、製材した材木の30%以上は安成工務店に供給される。全て天然乾燥材である。(略)
材木だけではない。安成工務店で使用されている住宅の断熱材は全て新聞紙をリサイクルした「セルロースファイバー」である。安成工務店が経営する「デコス」という会社が作っているが、この材料に使われている新聞紙の一部は、地元のNPO法人、「e小日本(えこにっぽん)きくがわ」が供給している。
NPO法人が各町内のPTAや老人クラブ、自治会などに委託して古新聞を回収し、その対価として町内で使用できる地域通貨「エコロ」を提供する。町民はこの地域通貨を使って町内の商店街で買い物ができる。商店主のところに来たエコロは、セルロースファイバーの会社「デコス」が現金に換えてくれる。町民のリサイクル意識と商店街の活性化の一翼も担っている。
このNPO法人の理事長は元町長、副理事長に安成さんが就任している。この活動は、資源の地域循環型社会をめざす、いわゆる「リサイクル活動」「ゼロエミッション活動」としても、全国でも初めての試みとして注目されてきた。地域住宅会社としてここまで取り組んでいる例はまずないのではないだろうか。
「まだまだ大きな運動にはなっていません」と安成さんは言うが、こういう試みに真っ先に取り組んでいるその姿勢は、単に地域の工務店の範囲を超えている。本当に地域の発展を考え、貢献しなければ、という強い気持ちがなければとてもできることではない。
その彼の企業人としての姿勢は、「雨水利用」、間伐材・廃材を利用した「ペレット製造」「低炭素住宅」など、環境共生住宅にすでに25年以上も前から取り組んでいることを見ていてもよくわかる。常に新たな取り組みへの挑戦の歴史である。
「新建材の家づくりから、自然素材の家づくりに転換して18年。健康で快適・安全な家づくりを考えると、天然乾燥材を使いセルロースファイバー断熱材を充填した『呼吸する木の家』が最適解だと確信しました。そんな家づくりを通じて、ものをつくる人々が評価される社会や地域の助け合いの心など、我々が失ったものを取り戻す役目を地域の工務店として果たしたい」とおっしゃる安成さんの挑戦はこれからも続く。
「住宅マーケティングの教科書-建て主の実例調査から見えてきた『らしさ』がつくる『新・価値創造』戦略」より
※安成工務店は「新・価値創造」戦略構築セミナーにゲスト工務店として参加します。
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