「やあ、いらっしゃい。外は寒かったでしょう。さあさ、お入んなさい」。この表現がこれほど似合う工務店の経営者を見たことがない。
白い歯を見せながら、ニコニコしたその顔には本当に旧知の友人、子供、孫たちを迎え入れる時と同じ気持ちがあふれている。そう、この対応はモデルハウスにお客様が初めて訪れた時の原田会長のいつもの姿である。原田会長は土日には必ず本社の前にあるモデルハウスにいる。土日に来られるお客様に、先のような感じで対応している。お客様はその言葉につられるように「こんにちは」と友達か親戚の家に来たような気持ちになって(?)入っていく。
「うちに来るお客様はねえ、必ずといっていいほど1時間以上、長い時には3時間くらい居てくれますよ。余程居心地がいいようです。みんな友達みたいな感じでね」。原田会長は初めてのお客様に決して名刺を出すことはない。
「だってねえ、名刺出して名乗ってからだと、どうしてもセールスしているみたいじゃないですか。それより、本当によく来てくれました、という気持ちで接することが大切でしょ。こんな一軒だけ建っているモデルハウスに来られるんだから家の新築か改築を考えている人に決まっているじゃないですか。そんな人に家を建てるんですか?と聞くのは変でしょう。ゆっくり気が済むまで見ていただいて、いろいろお話を聞いてやることが必要です。家を建てるなんて初めてのことだから何もわからないのです。だからみんな心配していることを、気になることをきいてほしいのですよ。そのためにはお客様にまず、リラックスしてもらって、話しやすい雰囲気を作ってあげることが大切です」
入って来られたお客様に彼は、「まあどうぞ、こちらにおかけください。何か温かいものでも飲みませんか。何がいいです」とニコニコしながら居間のソファに座ってもらう。決して、とりあえず着座してもらうことが大切、それからいろいろ聞くこと、というような、どこかで聞くノウハウ的な雰囲気は、みじんもない。
(中略)
原田会長からこんな話を聞いたことがある。
「まだ独立して間もないころでした。地域の子供たちに工作教室をと思って、チラシを作って夏休みのラジオ体操をしている神社の境内に、朝早く行ってチラシを渡そうとしたのです。ところが子供たちから冷たい目でにらまれて、一人もチラシを受け取ってもらえませんでした。とてもみじめな気持ちになりました。そんな日が何日も続きました」
その「工作教室」は今やこの地域の子供たちの夏の宿題をするためになくてはならないモノになっている。毎年親子で100組くらい、盛況である。
地域の人たちのことをよく知っている原田会長。モデルハウスに来られる多くの人が会長のことを知っている。だから安心していろいろ相談に来る。全く知らない人の場合でも、よく知っている人と同じように接するから、いつの間にかリラックスしてゆっくりと、モデルハウスで楽しい時間を過ごしてくれる。
このモデルハウスには「もてなしの家・ほのか」という名前がついている。アンシン建設工業の「もてなしのこころ」が一杯つまった家である。
「住宅マーケティングの教科書-建て主の実例調査から見えてきた『らしさ』がつくる『新・価値創造』戦略」より
※アンシン建設工業は「新・価値創造」戦略構築セミナーにゲスト工務店として参加します。
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