藤本修
あるシティホテルでのできごと
先日ある地方都市に出張した際に航空会社の系列ホテルに宿泊し、すごくがっかりしたと同時に地方の現状をよく表していると思えるできごとがありました。
その地方都市では格式一番のシティホテル。ビジネスホテルよりは安心して泊まれるだろうと思い予約しました。チェックインの時点でフロントのおざなりな対応に違和感を感じましたが、とりあえず仕事先の人との懇親会に出かけ1泊しました。
翌朝は8時過ぎに朝食会場に行きました。朝食の内容はここでは触れませんが、価格が安かったのもあって、まあこんなもんかと納得していたのですが、最後にコーヒーを取りに行ってビックリしてしまいました。
すごく美味しくない。たとえるなら、泥水のようなコーヒーでした。ただ、この味には記憶があり、以前ホテルの厨房で働いていたときに出会っていた味だったのです。
35年前のコーヒーの味
私がホテルの厨房で働いていたのは19歳の頃なので35年前になります。
当時私が働いていたホテルでは、1日分のコーヒーを朝まとめて作り、オーダーがあると温め直して出していました。子どものシーツほどあるドリップ布で、子どものお風呂ほどある寸胴いっぱいに作るのです。そのときのシェフは、コーヒーをドリップする際に「最後の1滴まで絞れ」と新人だった私に命令しました。
コーヒー好きなら知っているでしょうが、ドリップ後の粉を絞ると雑味が出て美味しくなくなります。それを温め直して出すのですから美味しいわけがない。泥水コーヒーのいっちょ上がりです。
いまどきコンビニでもそこそこ美味しいコーヒーが飲めるのに、今回泊まったホテルのコーヒーがまさにあのときの味。ああ、ここは35年前から時が止まっているんだなぁと感じずにはいられませんでした。
ライバルがいないと改善のチャンスを逃す?
地方で大きな競争にさらされず、比較対象とするものがないため自助努力をせず、昔からの仕事の仕方に疑問を持たなければ誰でもこうなる可能性があるのではないでしょうか。
おそらくホテル側の立場の人からすれば、「いままでのやり方で顧客から不満は出ていない」「たとえ不満が出ても全体からすると少数派なので変える必要性はない」のでしょう。
ただ、時代と顧客は常に変化しています。たとえ、ライバルのホテルがなく無風だとしても、一流のシテイホテルのコーヒーがコンビニ以下というのはどうなんでしょう?
顧客はブランドのプレミアコストを払っていますから、コーヒーのような些末なことでもブランドの価値を下げてしまうリスクは常にあるのです。
少なくとも私は2度とこのホテルには泊まらないでしょうし、人にもすすめません。ライバルがなく、改善のチャンスを逃した企業は環境の変化についていけず、このホテルのように茹でガエルになるしかないのでしょうか。
業種を超えてライバルがは存在する
私は高松市で高気密高断熱の注文住宅の会社を経営していますが、同業他社だけをライバルとして見ているわけではありません。住環境を提供する仕事はすべてライバルだと思っています。
ですから、住・暮らしにまつわる業種——賃貸アパート、分譲マンション、中古住宅購入、リフォーム、ホテル、ケアハウス、家電量販店はみんなライバルです。
高性能エアコンは家電ですが、これだって高気密高断熱住宅にとってはライバルとみることができます。
シティホテルなら、ビジネスホテル、旅館、民宿、結婚式場、貸し会議室、レストラン、カフェはもちろんのこと、いまならコンビニもライバルの1つと言えるかもしれません。
これだけたくさんの競合がいるなかで顧客に選ばれるためには、価格に対する価値を上げ続けるという不断の努力が必要です。
価格は常に相対的に判断されます。その比較対象は同業とは限らないのです。
アンビエントホールディングス代表
ハウス・イン・ハウス代表 大手ハウスメーカーでの営業を経て、1998年に香川県高松市に工務店・アンビエントホーム設立、高気密・高断熱なデザイナーズ住宅に取り組む。2003年からは、そのノウハウを全国の工務店に提供する住宅FC・アンビエントホームネットワークを主宰。2007年に設立したCRMでは、顧客管理システム「リレーションマネージャー」、温熱・省エネ統合計算プログラム「エナジーズー」を販売。2013年には断熱リフォーム事業のハウス・イン・ハウスを立ち上げた。現在は工務店の指導・講演で全国を飛び回っている。
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