小村直克
家づくりの経営思考をまず変革させる
最終回で今までのことを総括してみたい。
『工務店』すなわち、『工務をするお店作り』の根幹は、製造責任を果たすこと、それは工務を通じて分かち合える醍醐味そのものであり、そこに介在する施主、職人、そしてつくり手自身が、三方良しの仕組みを回し続けることである。
製造責任を果たすうえで、建築というものが組み立て作業という思考になった時点で、そのサイクルは途絶えてしまう。
日本の自動車産業のトップを走る世界のトヨタは、自動車を組み立て作業と位置付けて製造してきてはいない。なぜならばトヨタ文化には製造は組み立てではなく、擦り合わせ作業だという思考が根付いているからである。
建築も同じく、組み立て作業ではなく、擦り合わせ作業であると根付かせた時に、営業と設計、設計と工事、または営業と工事の社内トライアングルが回り始める。
現場が動いていても営業側の強硬的な変更がまかり通ったり、設計側から正式な図面が降りてこないというようなことが茶飯事にならないような社内的配慮や、そこに介在する職人同士が取り合いをカバーし合う思いやりのある工程間の受け渡しなど、建築は互いの役割や工程が常に取り合いの連続であるがゆえ、『取り合いを擦り合わせる力』=『現場力』であるに違いない。これはまさしく現場経営なのである。
住宅の品質管理コストは原価なの?経費なの?
この思考もまた、住宅経営に絶対欠かせない思考である。
自分たちが製造する住宅品質を裏付けるための手段や方策は、今での掲載で色々と公開してきたが、その品質にかけるコストというものを例えば損益計算書に落とし込むとすれば、どこに位置付けるべきなのであろうか?
残念ながら多くの住宅供給会社の経営者は、思考的に経費と考えている。品質管理に充てるコストを経費と考えると、それは受注量に応じて削減するという発想しか生まれないのである。住宅を購入するユーザーが、たまたまその事業者の受注が厳しい時に契約すると品質管理にコストを使ってもらえないといった刹那的な差配で物事が完結してしまうのである。
しかしながら原価と位置付けることで、製造するに当たって必要不可欠なものと捉えことができ、仮に受注が厳しくとも、かける品質管理コストにどう付加価値をつけようかというアイデアが創造できる。当然その原価を見直すことは必要である。品質を損ねない範囲での効率化はやるべきだが、それよりもそこでかけた原価コストをどう付加価値に転換するかといった、建設的な思考が絶対重要である。いつの時代でも、どんな環境でも踏ん張り続けられる企業こそ、当たり前と思える品質管理自体に力をいれている。それによって職人たちの安心感が生まれ、また社内スタッフ間の信頼が生まれ、最後には地域から見える企業価値と化すのである。
建築業が地域産業であり続けるために…
今年に入って、かなり工務店の倒産や廃業が目立ってきた。
現在の事業者の倒産が、安定受注の破綻に起因するとされる報道が多く見えるが、本質的な課題は契約に対する利益と精度の不足にある。大きく2つに分けると、契約に起因する契約精度と、工期中に失うムダムラの損失高だ。そしてもう一つ、建物品質の低さによる引き渡し後の後ろ向きなコストと時間が、企業収益を見えない部分で蝕んでいる。その負のスパイラルが企業の体質に根付いていることが、倒産要因の原点であることが多い。
企業体質が住宅品質を生み出し、住宅品質が利益を生む。
これからの地域密着型経営は、営業、設計、工務のどれかが突出し抜け出ることではなく、三位一体のバランスとそれぞれのブランディング戦略が必要となり、その実践継続こそが結果、企業ブランドにつながって行くのである。
営業先行型経営は決してダメではないが、先行している営業のレベルに応じた、生産部門の品質レベルの追求が条件だ。それを確保するだけの品質原価を予算化できるかが、これから存続し続けるための地域型経営の根幹である。
「現場は経営の鏡である」。そう信じれば社員も育ち、そして常に現場を探求することで経営課題がいつも抽出できるのである。まさしく「現場に神宿る」ということであろう。
小村直克 Omura Naokatsu 株式会社NEXT STAGE 代表取締役 NEXT STAGEアーキテクト株式会社代表取締役 京都府出身。大阪学院大学経済学部卒。1991年4月 株式会社エスバイエル【旧:小堀住研株式会社】入社。以降、建販商社に転職し、多くの建築会社との長年の取引を経て、2006年8月に株式会社NEXT STAGEを設立。2007年8月には、子会社として第三者住宅検査機関を法人化し、多くの建設現場の各種検査の実践を重ねるが、2013年には検査業務が品質向上には到底つながらない限界を体験し、検査業務を閉鎖。現在、業界初の『住宅品質の安定と向上を具現化する唯一の施工品質コンサルティング企業』であるNEXT STAGE GROUPの代表として活躍中。
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