小村直克
設計図書自身が影響する現場管理での落とし穴とは?
設計図書とは本来、何のために必要なんだろうか?
おそらく色々な申請に必要な書類であったり、現場に必要な書類であったり、当然お客様と契約するために必要な書類であったりと、さまざまな回答が出てくるであろう。
すべて正解である。
その中でも、とりわけ現場管理視点での設計図書の役割は、やはり家づくりをするために必要な基本的な形や仕様を現場に伝えるための重要な指示書なのである。
しかしながら、この住宅業界ではさまざまな販売政策は日々進化するが、現場体質と同じく、設計表現もまったく進化がないのである。
前回までに何度か触れたが、年々、現場管理者や職人のスキルや熟練度の格差や不足による人的な環境変化が顕著になってきているのに、設計表現が旧態依然としてまったく進化していないことも業界の大きな課題である。
例えば、極論ではあるが、将来、外国人労働者が現場を取り巻く時代に今の設計図書で対応できるのだろうか?
そういうことを想定すると、どういった表現を設計図書に求めていくのかという、原点回帰な現場視点での発想がこれから必要となってくるのである。
我々NEXT STAGE GROUPは既に、事業者単位の標準施工手引書をベースに、現在の設計図書と融合させ、今までになかった「現場視点での施工図」といったまったく新しい図書開発を現在、進めている。リアルタイムな変化の中で、どれだけ設計面が、現場の管理手法の品質を左右するのかをここでしっかりと認識していただきたいのである。
現場管理者に必要な3段階の設計視点とは?
前回のArchitecture Corporate University【現場管理者養成講座】で実践した内容であるが、まず基本的な一段階目は、進める工程に必要な設計図書が何であるかを選択できる力である。
現実として、全国のビルダーの設計図書を見ていると、設備図、展開図、各種伏図、さらには詳細な図書が予め存在しない企業も多いのである。
それぞれ企業ごとのやり方があるとしても、設計図書が現場への指示書という概念に基づくものであれば、それがなくて本当にいいのであろうか?
例えば基礎の段階で設備図面が存在するか否かは、配管経路に関するトラブルの発生に大きく関係する。我々は第三者的立場で全国の新築現場の監査を行ったり、維持管理的立場で点検業務を行っても、最悪なケースに陥っている現場は数多くあるのである。もっと早く計画をしておけばこのようなことにはならなかったのに…といった、後の祭り的な事例は未だ減らない。
こうしたケースを減らすためには、『この工程タイミングで、どんなことを職方に指示し、どんな設計図書が必要か?』といった、選択能力がまず重要であろう。
二段階目は、設計図書を読み取る力、つまり設計図書の読解力である。実は指示すべき内容というのは、色々な図面に分かれて記載されており、現場管理者はさまざまな図面を読み取りそれを一旦集約した形で職方へ伝達していくのである。その手法は口頭であったり、二次元の世界を三次元の施工図といった形で作成したりするのだが、現在の住宅建築事情では施工図自体を書かない、書けない、といったことも課題であることは否めない。
このように、どのような情報をどの図面からどう読み取るかといった読解力が、第二の現場管理者のスキルポイントになるのである。
三段階目は、やはり伝達能力である。上記に記載した施工図を作成できないだけでなく、設計図書を職方へ渡しておしまいというケースも少なくはない。
仮にそうであるなら、詳細や手順、許容などが一目で解る伝達しやすい設計図書内容に工夫し、改良しなければならないのではなかろうか?
設計業務もワーカー化が進んでいる事実
前回までに業界のワーカー化を指摘してきたが、やはり設計業務も顕著にワーカー化が進んでいることも忘れてはならないのである。
特に長期優良住宅が推進されるようになってからその傾向が顕著であり、例えばビルダーが販売アピールとして『耐震等級3』をうたい、強化していくケースも少なくはない。
多戸数ビルダーこそ顕著で、外部の設計事務所に委託するケースが多くなり、当然構造計算および申請業務費用を含めかなり安い金額で設計士に委託しているため、構造計算ソフトを自動計算で安易に作業してしまうのである。
すると、実際の基礎配筋の現場で、余りにピッチや鉄筋量が過剰であり過ぎたりで、現実どうやって納めるのだろうかといった現象も少なくはない。恐ろしいことに、主筋までも切ってスリーブを通しているなど、かなり厳しい現場も多く見てきている。
また構造におけるプレカットの金物の干渉なども同じことではあるが、もう少し現場を配慮した経済設計や、施工視点を考えた設計業務が良き品質を生み出す原点であるに違いない。
施工品質が悪循環するのは、職人の施工ミスよりも、現場管理者の伝達力や設計業務の安易な作業化が年々増加していることも大きな要因だということを決して忘れてはならない。
小村直克 Omura Naokatsu 株式会社NEXT STAGE 代表取締役 NEXT STAGEアーキテクト株式会社代表取締役 京都府出身。大阪学院大学経済学部卒。1991年4月 株式会社エスバイエル【旧:小堀住研株式会社】入社。以降、建販商社に転職し、多くの建築会社との長年の取引を経て、2006年8月に株式会社NEXT STAGEを設立。2007年8月には、子会社として第三者住宅検査機関を法人化し、多くの建設現場の各種検査の実践を重ねるが、2013年には検査業務が品質向上には到底つながらない限界を体験し、検査業務を閉鎖。現在、業界初の『住宅品質の安定と向上を具現化する唯一の施工品質コンサルティング企業』であるNEXT STAGE GROUPの代表として活躍中。
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