三浦祐成
「住宅産業大予測2015」をネタとする時事コラム。まず3回にわたり、新築住宅の高性能化がどうすればもっと進むのか、「省エネ健康快適リフォーム」/「エコリノベーション」が普及するのかについて、筆者なりの10の切り口で考えていきます。前回はまず4つを紹介しました。今回は5、6、7を紹介します。
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きっかけを与える
リフォームは「きっかけ」のビジネス。そう考えています。
これまで認識していなかった「不」、たとえば不快、不便、不潔、不健康などなど頭に「不」がつく住まいの問題について、「あること」をきっかけに強く認識するようになると、その問題を解決したくなる。
逆に言えば、「不」を強く認識する「きっかけ」を与えるでリフォーム需要は喚起できるはずです。
ひとつの例が日曜夜に放映されているリフォーム番組です。
あの番組では冒頭に強烈な「不」の存在が示されます。視聴者は「こんなひどい家があるのか」と面白おかしく見ていますが、示される「不」は程度はあれど、多くの住まいで起きている「不」で、番組をきっかけに視聴者は自宅にある「不」の存在を認識し、さらにはその問題はリフォーム・リノベで解消できることを理解します。そうすると「うちでも考えてみようか」となる。
あのテレビ番組はリフォーム需要を喚起する「きっかけ」となっていると思います。
リフォーム需要を喚起する「きっかけ」は無数にあります。
とくに、補助金や減税など時限措置による「お得」なメリットは大きな「きっかけ」となります。前回の住宅エコポイントは窓の取り替え需要を喚起しましたし、今回の省エネ住宅ポイントではさらにエコ設備への取り替え需要も喚起できるはずです(もちろん断熱改修もですが)。
「シックハウス」に代表される社会的問題の発生も「きっかけ」となります。ヒートショックリスクがさらに認知され社会問題化すれば、住宅高性能化や健康快適省エネリフォーム/エコリノベーションの大きな「きっかけ」になっていくでしょうし、今後また原油価格が高値安定になれば同様に「きっかけ」となるでしょう。
前回「自分ごと」として感じもらう重要性について述べましたが、「きっかけ」を与えることで「自分ごと」化が始まるとも言えます。セットで考えたい問題です。
「きっかけ」づくりは業界全体でも考えたいテーマですが、個々の企業レベルでも、すまいに潜む「不」をこれでもかとピックアップし、それぞれに「きっかけ」をつくり、その解決方法を伝えていくことで、需要喚起と集客は可能でしょう。
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情報を注ぎ続ける
自分たちが思っている以上に情報は生活者へ届いていないものです。とくに「自分ごと」化しない状態、「きっかけ」を与えていない状態の情報はスルーされてしまいます。
また、一度情報に触れただけですべてを完ぺきに理解してもらうことは不可能ですし、まして心を動かすことは簡単ではありません。
上の図は電通が運営している「電通報」というサイトから引用したものですが、とても共感できます。
まずニーズに気づかせる。これは、筆者の言葉で言う「自分ごと」化する、きっかけを与える、というプロセスです。「ニーズという心の奥の戸棚にあるコップに、目を向けさせ、手に取らせる」。面白い表現ですね。
次に「ニーズを情報を満たす情報を注ぐ」。コップに水を注ぐように情報を注いでいく。「右脳向け情報をメーンに、左脳で理解する情報も交えながら」と。
これはつまり、直感で理解できる、心を動かすような情報がまず必要ということ。これも同意です。住宅高性能化や健康快適省エネリフォーム/エコリノベーションについて伝える際も、直感的に心を動かす右脳に響く情報をメーンに発信し、それを左脳で理解するデータや理屈・理論で補完する、というのが正解なのでしょう。
右脳に響かせる方法としては、インパクトがありわかりやすい図やイラスト、前回も触れた比喩やキャッチフレーズ、写真や動画などがあります。また、コンテンツ的には経験者・顧客によるリアルな体験談、満足の声を伝えることも効果的です。
で、最後に「注ぎ続けてあふれさせる」と。あふれだしたら買いたくなった状態だと。ここはとても大事なポイントだと思います。
偉そうに言ってあれですが、住宅業界は生活者に向けた情報量が圧倒的に足りないと常々感じています。業界全体としてもそうですし、個々の企業、とくにつくり手にはそう思います。「注ぎ続けて、あふれさせる」までは行っていない。
逆に、情報を積極的に発信しているプレーヤーには顧客も、また同志的企業やネットワークも集まっている。とくにウェブを活用できる現在はなおさらです。
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体感してもらう
「自分ごと」化、「きっかけ」につながる情報を注ぎ続けて心を動かした後のプロセスとしては、体感して納得してもらうことが有効です。
納得とは、理由やメリットを理解して不安が消えること。
ネットショッピングでは「クチコミ・購入者の声」を掲載することで納得してもらい、実物を手に取らなくても購入に至っていますし、失敗だと思ったら返品も可能にすることで不安を打ち消しています。
ですが住宅の場合は金額が大きいこともありネット上の情報だけで完全に不安を打ち消すことはできません。体感というプロセスは重要です。
体感の場としてはモデルハウスや現場見学会があり、「クチコミ・購入者の声」に相当するものとしてオーナー(OB)によるリアルな解説をそこで行うことができれば、さらに納得度は高まります。
なにを体感してもらうかですが、住まいの基本的な魅力、スタッフや経営者の人となりやプロフェッショナル性はもちろんのこと、今回のテーマで言えば暖かい・涼しい、光や風の恵み、湿度などなどがあります。
問題は、躯体や設備の性能の差と暖かい・涼しいの差を体感してもらうのは難しいということです。大半の住み手は、現在の自宅と比較しての暖かさ・涼しさは実感できるでしょうが、他社の建物と比べてどうかということまでは難しい。また、冷暖房設備をどれだけ使っていたのかという前提条件の問題もあります。
前提条件を明らかにしたうえで、素直に体感してもらい、きちんとデータを示しながら、なぜこんなに快適なのか、1日を通じてどうなのか、1年を通じてどうなのかを説明する、といった方法がモデルハウスや現場見学会での基本でしょう。
体感の時間も冬の夜や、夏の午後といった性能を一番体感できる時間帯を選ぶなど、周到な準備が必要でしょう。サーモカメラなど体感の結果を理屈で納得させるツールも用意したいところです。
また、「宿泊体験」は1日を通した快適性や補助冷暖房がどの程度必要なのかを理解してもらう最高の体験機会。宿泊体験を経験すると受注率が高まるのもわかります。
体感してもらうことで、家とその性能が「なんのため」に必要なのかを理解してもらえれば理想です。筆者なりの解は「快適で、健康的で、幸せな生活を手に入れるため」。
逆に言えば、快適で、健康的で、幸せな生活は、お金で買うことができる(もちろんすべてではありませんが)。体感によってそう理解してもらうことができれば、コストへの納得も得られるのではないでしょうか。
「百聞は一見にしかず」。ビジネスの現場でもそのとおりなのです。
次回は残りのポイントを考えます。
三浦祐成 Miura Yusei 株式会社新建新聞社代表取締役社長
新建ハウジング・リノベーションジャーナル発行人 1972年山形県生まれ、京都育ち。信州大学卒業後、新建新聞社(本社:長野市)に入社。新建ハウジング編集長を経て現職。ポリシーは「変えよう!ニッポンの家づくり」。「住宅産業大予測」シリーズなど執筆多数。住宅業界向け・生活者向け講演多数。
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