小村直克
現場サイドに曖昧にしか落とし込まれていない原価管理の事実
案外軽視されているのが、現場の事前計画である。この連載の第3回でPDCA循環の品質向上に触れたが、D【Do】とA【Action】の往復が、臭いモノに蓋をし続ける業界の現場傾向であることをお伝えした。あくまで、お客様との契約で決められた予算と工期が絶対的なものではあるが、絶対的な契約行為だからこそ、PDCAをしっかり回すための緻密な現場の事前プランニングに時間をかけるべきなのである。
では、現場管理者の事前のプランニングとは一体何だろうか?
第2回ACU【現場管理者養成カリキュラム】で、参加者に自分たちの役割を確認したところ当然のことながら、工程管理を軸に、原価管理、業者管理、納材管理、安全管理、清掃管理など、いかにしっかりとした段取りをするかという認識は持っておられた。
しかしながら驚いたことに、原価管理に関しては、現場サイドでの根拠や認識はほとんどなく、なんとなく上から降ってくる原価予算であることがわかった。経営者や上司、または企業の積算を担当する上層部署からの通達に近い予算なのである。
現場管理者は、降ってきた厳しい予算と工期のなかで、出来高キャッシュの回転をスムーズにさせることや、職人手間をできるだけ安く抑えるために、厳しい環境での管理を実施することに精を出しているといっても過言ではない。
その上、実際降りてくる原価精度の甘さ、営業側からの工期中での変更や着工していても設計から正式な図面が上がってこないなどの余計な負荷が、ただでさえ少人数体制で厳しい現場管理環境に加わり、品質の向上ができない悪循環に拍車をかけている。
施工品質管理におけるPDCAが現場経営の根幹とするなら、営業部門、設計部門にもそれぞれのPDCAを回す仕組みを経営者が作り、企業全体のPDCAサイクルを築くことが、ビルダーとしての企業価値を創造するための基本ではないだろうか。
工程管理に関するプランニングに、恐るべき事実が隠されていた
第2回のACUでの教育カリキュラムでは、工程管理を中心に行った。5人単位で仮称工務店を作り、グループ課題としてモニター物件を使用し、配置、平面、立面、矩計などの基本的な設計図書から、決められた条件【着工日、上棟日、竣工日など】をクリアしながら、工程表を作成してもらった。全体工程はもちろん、月間工程までを時間内に作成し、全体発表を行った。
すると、どのグループも明確な工程ロジックで、ある程度しっかりとした工程表を作成でき、ほとんど全てのグループが類似したプランニングになったのである。
そこで発表後、工程作成での気づきをテーマに参加者に意見を求めたところ、驚いたことに「誰にも教えてもらったことがない工程表作成業務に自信がなかったが、今回のグループ作成で皆様と同じやり方でホッとした」という意見が多数出たのだ。
つまり、多くの建設会社では、現場を管理する上で最も重要な工程計画の指導や教育がまったくされていないということなのである。今や業界は、販促先行型経営にひた走ることで、その副作用としてこのような大きな落とし穴に陥っていることを、企業のトップは一度省みる必要があるのではなかろうか。
工程表作成から、現場管理のポイントが自然に見える
参加者からの発表の中に、もう一つ大きな気づきがあった。それはどの工程を自ら押えないといけないかというポイントである。そして、共通した考え方は次のようなことである。まず、このタイミングを過ぎれば解体しない限り、やり直すことができないタイミング。もうひとつが、自らが職人なら絶対ここだけは押さえておきたいと考えるポイント。この2点である。
今までの経験と慣習の中でなんとなく納めていた意味や根拠をきちんと理解することで、施工管理の思考や使命感、そして応用に導かれるのである。
上記の2つのポイントを加味したうえで、現場管理者が最低限見に行きチェックしないといけないタイミングを例にあげれば、建物の配置、基礎の段階であれば基礎底盤コンクリート打設前などは絶対外せないであろう。また、立ち上がり時のアンカーやホールダウンの配置や、基礎立ち上がり完了時のレベルチェックなども欠かせないタイミングである。実際の研修の場で参加者から出た内容である。
現在、ビルダーの現場管理に対する価値観が問われている。現場に行く回数を減らすことや、検査会社に全面依存したり、業者に任せっきりにすることは、企業としての製造責任が問われるだけでなく、その先にいる数千万円という定年までのローンを組んだユーザーの気持ちを考えれば、現場管理は絶対外せない業務だと認識していただきたい。逆を考えれば、工程管理を精度高くプランニングすることでのデメリットは何一つないのである。
厳しい現場管理環境下、敢えて事前計画に綿密な時間をかけ、仮に変更があったとしても、迅速な工程変更を業者に促し、なんとか工程管理業務だけは最低限、食らいついて頂きたいものである。
これからのビルダー経営には、リーダーシップを保持した現場管理者が不可欠
厳しい工期での流れに職人の手当てがままならず、効率化とは全く逆の風が吹き荒れている。これからの現場品質管理には次の4つのポイントが重要だと考えている。1つ目は協力業者との前向きな連携と創出。2つ目は工程管理業務の精度と社内ルール。3つ目は工程管理能力[施工の知識]。最後にコミュニケーション能力なのである。
職人任せの業界環境下、これからは職人が仕事を選ぶ時代に差し掛かってきた。ユーザーから選ばれる安定受注もさることながら、職人から選ばれる企業になることを忘れてはならない。それは、いかにムダムラのない段取りの良い現場環境を作り出せるかにかかっている。そのためには、企業が自立したリーダーシップを持つ現場管理者を育て、大切に育成していくプランニングが必要だ。それがビルダー経営のPDCAに不可欠なポイントであろう。
ビルダー経営もこれからは、目先の収支から三方良しの中長期視点を持たなければならない。こういう時代だからこそビルダーが長く存続するには、現場環境を見つめ省みることが重要なのである。
小村直克 Omura Naokatsu 株式会社NEXT STAGE 代表取締役 NEXT STAGEアーキテクト株式会社代表取締役 京都府出身。大阪学院大学経済学部卒。1991年4月 株式会社エスバイエル【旧:小堀住研株式会社】入社。以降、建販商社に転職し、多くの建築会社との長年の取引を経て、2006年8月に株式会社NEXT STAGEを設立。2007年8月には、子会社として第三者住宅検査機関を法人化し、多くの建設現場の各種検査の実践を重ねるが、2013年には検査業務が品質向上には到底つながらない限界を体験し、検査業務を閉鎖。現在、業界初の『住宅品質の安定と向上を具現化する唯一の施工品質コンサルティング企業』であるNEXT STAGE GROUPの代表として活躍中。
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