小村直克
■現場監督に従事している社員の本音とは・・・
2015年度のACU(アーキテクト コーポレート ユニバーシティ)現場監督養成講座が今月からスタートした。今後、職人のワーカー化が進むにつれ、現場をマネージメントする現場監督のポジショニングにこれからは注目が集まると考えている。現実は時間外労働や休日出勤で、社内で起こりうる引き渡し後のメンテナンスやクレームといった幅広い部分まで駆り出されているのが現状であり、非常に離職率が高く、スキルアップできるような環境に置かれていない狭い視野での業務になっているのである。
ACUの第1回のカリキュラムでは、個人の持つ人間力やコミュニケーション力といった報・連・相にまつわる内容からグループディスカッションを経て、「現場監督の仕事とは?」という原点まで参加者全員で討論を重ねた。参加者から出てきたキーワードは、「段取り」と「現場経営」だった。それは、大切なお客様の家づくりを預かる施工現場の中心的ポジションにいて、いかにスムーズに契約内容通りに実施できるかという、施工品質そのものへの想いを示す言葉だと感じた。現在の現場監督者においても、根底にある日本人的ものづくりの原点は、決して失われていなかったことを今回確信したのである。
「段取り」の重要性は、どんな職業やポジションにおいても同じだ。例えば他部門の社員であっても、また現場の職人であっても、段取りができる人間は優秀であり、段取りで8割の仕事が決まるということわざも、その通りであると思う。現場監督からこのキーワードが出てくるという事実は、きっとそうなりたいという願望があるからなのである。
■もう一つの「現場経営」というキーワードの現状とは・・・
品質改善のサイクルである「PDCA」。現場経営とは「PDCA」そのものであり、このサイクルを回し続けた結果が、施工品質とイコールなのである。しかし、今回の養成講座では、このサイクルそのものを知っている参加者は1割くらいしかいなかったのも事実であった。
このPDCAは、経営幹部や営業系の管理職などは恐らく知っている方も多いはずである。しかし、生産系の部門にはあまりこのような品質改善の基本が伝達されていない。家づくりという大きな製造責任をどう果たしていくかという「現場経営」の感覚が欠落していることを再認識したほうがよいのではないだろうか?
P(Plan)→D(Do)→C(Check)→A(Action)とすると、現在の日本の施工管理は、「D」と「A」の繰り返しなのである。例で挙げると、現場管理者はとにかく今の現場を収めようと一生懸命に「Do」をしている。そして問題が起こればとにかく「Action」をしていく。問題が起きれば蓋をするという繰り返しなのである。
■「D」と「A」の往復現象が止まらない理由とは・・・
段取りをスムーズに行うための「P」プランの重要性を再度理解する必要がある。現場を管理する上で、どのような工程で、どんな業者を使って、どんな単価で、どのようなタイミングで実施するのか?といった、プランニングに時間をしっかりかけるべきである。この辺りの弊害として、決めたプランに営業側の身勝手な変更が入ったり、正式な設計図書が着工までに上がってこなかったり、現場管理者以外の部門での大きな事情がどの企業にも存在しているのである。
これを顧客サービスと考え、どうしようもないと認めるというならば、現場品質は諦めたほうがよい。その前に企業トップとして、しっかりとした全社的な経営判断やゆるぎない軸を持つべきなのである。当然、各部門でのPDCAの車輪を回す取り組みを必ず実践して欲しいのである。
もう1つ重要なのは、「C」チェックという、適合しているかどうかの確認をしっかりと行うことである。このチェックに関しての大きな弊害が、適合させる自社の基準がないこと。それは現場監督のスキル不足と業界全体の人材不足を意味するのである。
たとえ優秀な現場監督がいたとしても、たくさんの現場を持ってしまえば現場に足を運ぶ時間も減り、職人任せとなる。仮に時間があったとしても個人の能力や経験の差による主観的なチェックしかできず、人的な判断ムラが浮き彫りになってしまう。初心者の現場監督であれば、現場で学ぶ時間的環境も制限され、どんどん閉ざされてしまっているのである。
施工品質安定のためには自社の施工指針や基準作りはもちろんのこと、現場監督の定期的な教育が必要だ。人材不足で仮に現場チェックが滞るのであれば第三者の力を借りてでも、しっかりと行う必要がある。
このPDCAサイクルを回すには、多少のコストがかかる。多くの企業は自社の製造責任に関する品質管理コストまでも削って、ユーザーに対して価格を下げて販売する。販売促進的発想も理解はできるが、品質管理のコストが予算上確保されていない企業が多くなっている。さらに職人手間を抑え、夢ある職人環境を崩壊させてきた。
こ自社の製造責任を果たせるコストだけは絶対に確保し、また職人を育てられるだけの適正な賃金を確保したうえで、経営計画を立てていくことこそがこれからの家づくりの王道である。そうしなければ、これからは現場監督のやりがいがなくなるどころか、なり手もきっといなくなるに違いない。
小村直克 Omura Naokatsu 株式会社NEXT STAGE 代表取締役 NEXT STAGEアーキテクト株式会社代表取締役 京都府出身。大阪学院大学経済学部卒。1991年4月 株式会社エスバイエル【旧:小堀住研株式会社】入社。以降、建販商社に転職し、多くの建築会社との長年の取引を経て、2006年8月に株式会社NEXT STAGEを設立。2007年8月には、子会社として第三者住宅検査機関を法人化し、多くの建設現場の各種検査の実践を重ねるが、2013年には検査業務が品質向上には到底つながらない限界を体験し、検査業務を閉鎖。現在、業界初の『住宅品質の安定と向上を具現化する唯一の施工品質コンサルティング企業』であるNEXT STAGE GROUPの代表として活躍中。
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