河井良治
コミュニケーションを最適化するためのプログラム。前回に続きふたつめのステージ『何を』…発信のコア『USP』とそのメッセージ化について。
ターゲットに対する「引き」の決め手となる重要な要素『USP』の解説とその抽出・仮説化の手順からの続編を。
■前回のまとめ
まずは簡単に前回の整理をしておきます。
ターゲットを動かす。「来る・聞く・買う・契約する」といった行動の喚起のためにアピールの中核に何を置くか?
それは自社ができること・伝えたいことをひたすら大きな声で発するのではなく、競合先と比べた際にオリジナリティが感じられ、かつターゲットのニーズや期待にフィットする「独自の強み・魅力」をきちんと設定することが大事。
そしてその抽出は…
① 自社の「できること」「強いこと」を整理する
② 競合先の「できること」「強いこと」を整理する
③ ①と②を比較し「独自性」のあるものを選抜する
④ ③での選抜項目をターゲットのニーズと照合する
の手順で実施します。
■『USP』がない?
今回は問題提起をひとつ。
上記の手順で進めたうえで、④の照合の結果、時として残念な事態になることがあります。ターゲットのニーズに上手くフィットする自社の強みがない。つまり『USP』として掲げるものが弱いといったケース。
この場合の対処としてはニーズの優先がすべて。とても大変なことではありますが、いくつか摘出したニーズのいずれかにリンクの掛かる付加価値の高いビジネススキームを、改めてきちんと構築することしかありません。
- 既にあるサービスの質や領域を変える。
- 住まい提供のための新たなプロセス・仕組みを導入する。
- 競合先のサービスメニューにない切り口を開発する。
そのいずれであっても、現状のリソースや営業スタイルなど、業務の根幹を見直さなければならない大きなエネルギーが必要になります。事業領域のメインを新築・建て替えから改築・リフォームに置こうとするだけでも、当然ながら必要なバックヤードや体制が大幅に変わってきます。
しかしそこに着目しない限り、明らかに競争原理が高まるはずの住宅業界においての生き残りは危うい。中長期的な存続は、その着手に掛かっているということを認識しておかなければならないでしょう。
一方でその再整備ができれば、結果として以後の販促の方針や施策もはっきりしてきます。
- ターゲットとの初期接点を拡張するのか?
- 少数接点の中での制約確率を最大限に上げるのか?
- 既存客との付き合い方をどうするのか?
顧客戦略の優先化・具体化も確実にしやすくなるはずです。
『USP』をメッセージ化する
このステージの最後は、『USP』をターゲットに向けて翻訳する「メッセージ化」。抽出した『USP』は、あくまでキーワードであり概ね自社が主語・主格となることば。ターゲットに向けての発信の際、よりリアルに理解し共感してもらうためには、ターゲットから見た具体的な「メリット」がわかりやすく伝わるフレーズでなければ響きません。
例えば、「中小規模のリフォーム中心で」がキーワードなら、メッセージの原型は「住まいのどうしよう?ならなんでも…」「『もっと良く住む』を一緒に考える」に変換できそうです。「アフターケア強化」なら「長くずっとお付き合い」に。「カスタマイズプラン優先」ならば「あなたの『○○したい』に応える」という書き換えも可能です。
翻訳を終えたら仕上げを。シンボリックでインパクトのあるコピー表現へのレベルアップを施して完成。ライティングとしてのプロのスキルが伴う難易度の高い作業ですが、ターゲットの共感を促すための、そして最適なコミュニケーション実現のためのとても重要なポイントです。
繰り返しになりますが、『USP』のきちんとした構築はなかなかハードルの高いことです。しかし、自社のビジョンや方向性、ビジネスの展開を踏まえた強化ポイントと直結する『USP』を明確にすることで、自社のブランド・アイデンティティや存在意義もはっきりしてきます。ターゲットや市場から認知されたい理想のイメージも見えてきます。自社紹介も容易になります。口コミの原点にもなり得ます。オリジナリティや優位性が上手く伝われば、血の通ったファン意識も期待できるはずです。
発信側のパワーのみで「集める」のではなく、お客さまが自発的に「集まる」流れ。それが持続性のある集客と売上維持の基盤。『何を』の確立が確実にビジネスを変えます。
次回は『どう伝えるか?』。PR・広告・宣伝といったコミュニケーション施策の具体的な組み立て方を紹介します。
引き続きお付き合いください。
河井 良治 Kawai Ryoji 「株式会社クリエイティブ・ユニティ」コミュニケーションデザイン部門マネージャー コピーライターからクリエイティブディレクターを経て、プランナー・プロデューサーとして、ブランディング・プロモーションなど各種ジャンルの戦略プランニングや設計のためのメソッド開発を中心に活動。本連載もオリジナル・パッケージ・メソッド『Re:Brandest』をベースに寄稿。現在、住宅メーカー・車輌関連サービス業・学校法人・商店街など個別のブランドPR案件も推進。30数年の企画の現場で携わったプレゼンテーションは650件超。心理学の領域での経験や知見を活かした実践型セミナーや学校での講演・講座等も担当。
http://www.creativeunity.jp
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