河井良治
コミュニケーションを最適化するためのプログラム。ふたつめのステージは、最も重要かつ難しい課題である『何を』…ターゲットへのアピールとして何を発信の中核に置くのかについて。
ポイントは「行動喚起」。ターゲットが「会いたい」「話を聞いてみたい」「契約したい」と思う刺激、いわゆるモチベーションをジャストミートする「引き」がそこには必要です。ではそのテーマをどう抽出するか?
第3回と第4回、2回に渡って「引き」の決め手となる『USP』という考え方の解説を中心に進めます。
■選ばれる理由=『USP』
最初に少しだけ専門的な話に寄り道を。
『USP』という理論を提唱したのはアメリカのロッサー・リーブス。広告の世界で50年以上も前から大切にされている古典的な概念です。
何かを訴求しようとする時、『USP』(= Unique Selling Proposition)、つまり「独自の売りとなる提示要素」をはっきりさせることが最も大事。その具体的な定義は3つ。
●提示された側が利益・良い結果を得るものであること
●他にない独自性の高いものであること
●提示された側を動かせるパワフルなものであること
ここからは自分自身の意訳。
ひとことでまとめ直すと…
ターゲットのニーズや期待にフィットし、かつ競合と差別化でき、オリジナリティを感じさせる「独自の強み・魅力」をきちんと設定し、アピールのコアとすれば人は動くはず。
…という感じでしょうか。
もっとシンプルに解釈すると…
提供できる「ならでは」の付加価値は何?
自分たちの「らしさ」をグッと絞り込むと強い「引き」になるよ。
…とも言えそうです。
ということで、『何を』=「引き」のテーマ開発にあたり、改めてこの『USP』にこだわってみる…というのが今回の結論。
講演しているセミナーでのワークショップや個別で携わっている案件の中で実施している具体的な手順を紹介すればよりわかりやすいのですが、今回はスペースに限りもあるためオリジナルの図解を含め『USP』仮説化の考え方の説明にとどめます。ご了承を。
■『USP』を抽出し仮説化する
① 自社の「できること」「強いこと」を整理する
まず、自社をできるだけ客観的に分析し「できること」「強いこと」を書き出してみます。その際に…
- 実績・経験の側面から
- 設備・資源の側面から
- 規模・キャパシティの側面から
- 体制・仕組みの側面から
- 人材・リソースの側面から
- 技術・ノウハウ・知識の側面から
- ネットワークの側面から
- 広告・宣伝・PR活動の側面から
- 風土・環境の側面から
- 理念・姿勢・スタンス・視点の側面から など
領域単位で考えていくと出しやすいはずです。視野が偏らない意味でも、できれば関係者複数名で意見交換しながらの整理がお勧めです。
併せて自社分析の一環として、また次の『どう伝えるか』を設計するうえでの準備として、現状の営業活動や販促・PR活動の実態と評価もこの時点で整理しておきましょう。
② 競合先の「できること」「強いこと」を整理する
自社と競合する企業・ブランドを具体的に抽出します。そして今度はそれら競合先の「強み」を客観的に整理します。
指標は、同様領域ごとに。加えて想定の度合いが強くなりますが、競合先が今後プッシュしてくると思われる事業としてのジャンルやターゲットから見たイメージ・評価も追記しておきます。
さらに、最近の営業活動や販促・PR活動の動向・成果も①の自社分と同じように。
③ 上記①と②を比較し「独自性」のあるものを選抜する
整理した①と②を比較し、競合する先と異なる自社の特長、差別化が可能だと思われる自社「ならでは」の強み・「らしい」強みとなる項目を選抜します。
この時点で注意が必要なこと。
コモディティ化が進んでしまっている価格やスピード・時間対応などをここで選ぼうとするなら、それは圧倒的なレベル、とんでもない水準でない限り強みであると言い切りにくいのが実情です。安い・早いは今や標準品質。あえてそこを「独自性」として押すのなら、それが実現・提供できる背景となる部分…「なぜそれが可能なのか?」「○○だからこそ、こんなに安い・早い」とセットにしたカタチが必須です。
④ 上記③での選抜項目をターゲットのニーズと照合する
選抜した③の結果を、先の『誰に』のステージで集約したターゲットの住環境や住まい、またそれを決める過程で発生する「ニーズ・要望・期待」や「意思決定の基準」と照合し篩(ふるい)にかけます。そのうえで、マッチングのレベルが高いと思われる要素・キーワードを再度抽出したもの。これが「ターゲットのニーズにフィットした独自性の高い強み・魅力」=『USP』。すなわち、自社の勝負どころです。
残った要素・キーワードが…
- ターゲットに「それっていいねぇ!」と実感してもらえることか?
- ターゲットにとっての「いいこと」がはっきりしているか?
- ばれる決め手としての手応えがあるか?
- 社の長所・カラーが濃く出ているか?
- ターゲットに必ず約束できることか?
などターゲットの厳しい目で最終チェック。『USP』の検算を。
第1回でも触れた、発信する側が「こんなにいいことが提供できる」と思って投げたことが、ターゲットに思ったほど響かない失敗のケース。そこに陥らないためにも、自社の「できること・やりたいこと」が、ターゲットにとっての「嬉しいこと」や「必要なこと・期待していること」にきちんとリンクしているのか?…その客観的な検証こそが、ビジネスとして継続・拡張させていくためにどうしても必要な手続きなのです。
補足をひとつ。
前回『誰に』のターゲット・プロファイルを深めるヒントとして、自社の既存のお客さまに注目することを述べました。
今回の『USP』に関してもそれは当てはまります。直近数年の自社顧客に、もし可能であれば「なぜ自社と契約することに決めたのか?」「他社に比べて自社の何が良かったのか?」をぜひヒアリングしてみてください。
コスト・納期等の物理的なアドバンテージ。技術的なこと、デザインや設計のセンス、素材・基礎へのこだわり、希望に対する柔軟度や提案力といった具体性のあるものばかりではなく、熱心さや誠実さなど意外なほど極めて情緒的なものであったりもします。これも自社の持つ『USP』のひとつの側面。把握したうえで、以降のアウトプットを組み立てる流れの中でぜひ有効に活用したいものです。
次回は『何を』の続き。抽出した『USP』の評価とそれをよりターゲットに伝わりやすくするための加工・仕上げについて。
引き続きお付き合いください。
河井 良治 Kawai Ryoji 「株式会社クリエイティブ・ユニティ」コミュニケーションデザイン部門マネージャー コピーライターからクリエイティブディレクターを経て、プランナー・プロデューサーとして、ブランディング・プロモーションなど各種ジャンルの戦略プランニングや設計のためのメソッド開発を中心に活動。本連載もオリジナル・パッケージ・メソッド『Re:Brandest』をベースに寄稿。現在、住宅メーカー・車輌関連サービス業・学校法人・商店街など個別のブランドPR案件も推進。30数年の企画の現場で携わったプレゼンテーションは650件超。心理学の領域での経験や知見を活かした実践型セミナーや学校での講演・講座等も担当。
http://www.creativeunity.jp
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