河井良治
顧客獲得を目的とした「最適なコミュニケーション」のためのプログラム。そのスタートは『誰に』。まずはターゲットをきちんと設定し深く理解することから。
前回の結論の通り、ブランディングやPRの起点はあくまでもユーザー。その目線や気持ち、判断・行動の基準などを具体的に把握してこそ、刺さる発信・響く施策の組み立てが可能に。第2回は『誰に』を掘り下げる3つの段階を紹介します。
■ターゲットを絞る
最初にターゲットを明確に設定することから始めます。対象の中でも特に顧客化したいお客さまのゾーンを絞り込み、優先的にアプローチする「メインターゲット」として特定してみましょう。
例えばプレゼントを選ぶ場面を想像してみてください。10人の相手すべてに喜んでもらえるひとつの贈り物を考えるのは相当難しいですが、相手がひとりとなればぐっと選びやすくなる。それと同じ。
ターゲットの想定がその後に設計する施策の内容に直結することは前回でも述べました。対象をフォーカスすれば、そこに向けて何をしたらいいのかが自ずと見えてきやすくなるわけです。
そしてそのメインターゲットの「プロファイル」をできる限り具体的に抽出し整理します。世代・年齢層、世帯としての構成や住まいの形式、生活の状況や環境など。加えて、日常生活を想像しながら、平日・休日での行動パターンや情報収集の手段、買物の仕方、余暇のすごし方、周囲との付き合い方や通信方法、興味・関心のありそうなことなどもどんどん書き出しておきます。
ヒントは自社の実際のお客さま。直近数年の自社顧客に多く見られた特徴や共通項を引き出してみてください。思い当たるわかりやすいポイントが出てきたとしたら、それはメインターゲットをフォーカスするうえでの重要な手掛かりになるはずです。
■ターゲットを知る
次の段階はメインターゲットに関する情報収集の徹底。特に「家・住まい」に対する思いや考え方、それに伴う行動についての情報をより深く。そのうえでメインターゲットを主役とした「住宅購入・建て替え・リフォーム」についての「ストーリー」を組み立てます。
イメージしたひとり(もしくはひと組)のメインターゲットを頭の中で動かしながら、その後をドキュメンタリー番組のカメラになって追い掛ける感じで…。
特に以下の4項目に注目。
●住宅購入・建て替え・リフォームの発注先を決めるための行動プロセス
どんなきっかけや入り口から始まり、どんなタッチポイントでどんなルートからどんな情報を得て、どんなステップを経て発注に至るのか?
● 各ステップでの選択・判断・意思決定の基準と影響される要素
次の行動に進むための決定を何に基づいてしているのか? どんなことで気持ちが動くのか?
●住環境・新しい住まい、またそれを決める過程でのニーズ・要望・期待
そもそも「いい購買」を実現するために何を欲しがっているのか?
●自社に対するイメージ・評価(+不満)
併せて競合となる企業に対するイメージ・評価も知っておきたいところ。
ここでのポイントはディテールにもこだわっておくこと。例えば、影響力の高い情報の入手は口コミ…ではなく、「主に誰からの」口コミなのか? 家族なのか? ご近所の経験者なのか? 一緒に○○する友人なのか?
情報収集のベースは、ひとまず自社内の各担当者からのヒアリング。知り得る事実・実態を集めながら予測・想像を交えて仮説化していきます。とは言え、それだけでは限界があったり想定外の事実が隠れていたりします。
ストーリーの精度を上げるうえで、当事者からの発信に勝るものはありません。手間とコストが多少掛かっても、従来の顧客やメインターゲットに該当する周辺ユーザーへのインタビュー(定性調査)やアンケート(定量調査)はぜひ実施しておきたいところ。それくらいこの段階での仮説ストーリーが重要であることと、想定と実査結果にはしばしばズレや大きな乖離(かいり)が起きることを認識しておく必要があります。
リサーチ、特に定性調査のデータは少人数であったとしても絶対に有効。直接取材の場は、行動からだけでは察知できない領域も踏み込んで聞くことができます。心配ごとや困っていること、嬉しいことや嫌なこと、先に向けての思惑や希望といった情緒的な情報はファンづくりにおいてとても貴重です。
また規模にもよりますが、仮説としての客観性をより高める意味で、調査関連のオペレーションや分析については、できれば専門のブレーンに関与してもらうことをお勧めします。
前段のプレゼント選びの例え話の続き。贈る相手の好みや嗜好・苦手なものなどがわかれば、プレゼントは一気に探しやすくなります。しかもそれが潜在的な「欲しかったもの」のツボを捉えてたりすれば、絶対に喜んでもらえるはずです。
■ターゲットの気持ちと行動を図式化してみる
『誰に』の仕上げは図式化。仮説として組み立てたメインターゲットの住宅購入・建て替え・リフォームの発注先を決めるための行動プロセスをフローの形に置き換えます。そして収集した情報や調査結果をもとに、各ステップで活用するツール・メディアや「意識」の部分も書き加え可視化していきます。こうすることで流れが見えます。変化が見えます。そして因果関係などもよりわかりやすくなるはずです。
図式化していくうえで重要なのは、それぞれの行動・アクションの「背景」を考えておくこと。なぜそう動くのか? なぜそう判断したのか?…といった基準になる部分や価値観にあたる部分を、ターゲットになったつもりでシミュレーション。再度深掘りして書き加えておきましょう。
こうしてターゲットの目線での考察を繰り返し深めていくことで、後に続く『何を』や『どう伝えるか』の輪郭も見えてきます。ターゲットの求めていることや期待することがはっきりすれば、そこに応え伝えることも曖昧にはなりません。ターゲットの情報を得る方法・ルートやその影響度レベルがわかれば、より効果的な伝え方もわかってきます。
最適なコミュニケーションプランを築いていくための大事な根拠を固めるのがこの『誰に』の段階。いわば企画の基礎工事のようなもの。ここが強ければ次の段階が緩まないのです。さらにこの基礎工事が盤石であれば、この後設計し進めていく施策でいきなり大きな成果が出なかったとしても、課題の検証や改善点・修正点の検討のための軸として必ず機能し、コミュニケーションを精査するためのベースとなってくれるはずです。
次回は『何を』。ターゲットへのアピールの中核に何を置くのか? 自社の強みをどうそこに生かすのか?…についての手順を紹介します。
引き続きお付き合いください。
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