11月22日に発生した「長野県神城断層地震」で住宅が全壊する被害が集中した白馬村堀之内地区は、ゆるやかな傾斜地の中腹に住宅が密集して建ち並ぶ。全体的には、いわゆる在来軸組構法で、葦で小舞をかいた土壁の家が多い。築100年を超える民家も複数あり、それらにも大きな変形がみられた。周辺には地割れや道路の崩壊など、地盤変動の跡が目につく[写真1]。
古い民家の被害
「日清戦争の前に建てられた」と家主がいう民家は、大きな小屋組みを持つ土壁の住まい。1/10以上傾き、柱は礎石から大きくずれていた[写真2・3]。ただしケヤキの大黒柱をはじめ、目視した限り、柱が折れている様子はない。
「昔の家だから、材料もよくて、貫構造なんだ。この辺はすごく強い揺れだったんじゃないか。地盤が悪いとは聞いたことはなかったけれど、状況をみれば、そうだったんだろうな。けれどペシャンコにはならなかった」と、家主自身が話してくれた。下では完全に倒壊した建物が道路をふさいでいたが、倉庫で、人は住んでいなかったという[写真4]。
松本から片付けに来ていた女性の家は、同じく大きな小屋組みを持ち、築200年。昔の茅葺き屋根が瓦に葺き替えられている。「いつもは母が一人で住んでいるけれど、地震があった日はたまたまいっしょに松本にいた。戻ってみたらこの状況で、大黒柱に小さなひびが入っていた」
最初は小さかったひびが、余震で揺すられるたび大きくなり、現在は家が道路側に徐々に傾いてきている状態だという[写真5]。「『もったいない。家を小さくして、何とか直して住めるのでは』といってくれる人もいるけど、解体撤去しかないと思う」
その近くの家も、大きな小屋組み、土壁で、築60年。柱が基礎からずれ、建物はやはり1/10以上傾いていた[写真6]。「うちの家は土台の上に柱がのっているだけ。だからこうなるよ」と、これも家主自身がそう話した。倒壊している建物が近くに2棟あったが、いずれも、この家主の車庫と作業小屋だという。
倒壊出るも死者ゼロ
今回の地震は全壊36棟・半壊65棟・一部損壊999棟(長野県発表12月1日時点)の被害を出しながらも、死者が一人も出なかったことが注目されている。
中山間過疎地域の特性として、敷地が広く、倒壊した建物には倉庫・車庫など普段人が住んでいないものも含まれていたが、そのうえで、住民のコミュニティー意識が高く「助け合い」の機能が働いたことは、今後の防災対策の視点になり得るだろう。
倒壊した家から助け出された老夫婦の友人だという女性が、神奈川から駆け付け、片付けを手伝っていた。「よく生きていた。よかった。あんな目に遭っても、今日はもう動いているんだから」と話す。聞くと「寝ていたベッドの手すりがつっかえ棒になって、まったく身動きできなかったけれど、翌朝助け出されたようだ」という[写真7]。
堀之内地区の東部に建つ築40年の家は、土壁で、筋かいで耐力を補強していた。大きく傾いてはいなかったが、筋かい壁に挟まれた真ん中の壁が外側に膨らむように変形しているようだ[写真8]。
「この辺は雪が降るから、大工が強くつくってくれていたとは思うんだけれど。直して住めるかどうか、わからないね。地盤が悪いとかは、聞いたことがなかった」と家主が話してくれた。地震の日は家にいなかったという。
「ただこの辺は自治会とか消防団がしょっちゅう寄り合いをして、いろいろな職業の人がいつも情報交換している。誰がどう生活しているのかある程度様子がわかっていて、その点はよかったかな。ただ、西側の地区の被害が大きいから、こっちにはあまり(慰問などの)人が来ない」と笑った。
今後の地震対策
避難行動や救助活動、またその先で迅速な復旧作業を進めるには、いうまでもなく、家が倒壊しないことが必須条件となる。最低でも、住宅内に人が生存できる空間、動ける空間が確保されることが前提だ。建築基準法でも、大地震を受けたときの建物の安全レベルを「損傷するが、倒壊しない」と位置付けている。
急激な耐力低下を抑えて建物に粘りを持たせるには、衝撃で柱が折れないこと、接合部が外れないことが重要となる。大きく傾いた住宅のなかには、そうした被害も複数みられた。また土壁は剥がれ落ちているものが多くあった[写真9・10]。
一方、鉄骨造とみられる新しい住宅で、柱に巻き付けた根巻きコンクリートが破断している被害もあった[写真11]。近くのテニスコートには大きな地割れが走っている。
柱にどの程度のダメージが及んでいるかはわからず、一見すると、家自体は普通に建っているようにもみえる。しかし、主要構造部に関わる損傷のため、見かけ以上に深刻な被害だ。応急危険度判定は「危険」となっていた。
住宅の場合、現在の設計法は、建物が損傷しない領域(傾き1/120程度)での強度に重きを置いて耐震性能を評価する。そのため現行(新耐震基準以降)の構造規定にそって建てられた家は、総じてみると、大地震時でも損傷の程度は低いとはいえる。今回の被害様相を、そのようにとらえることも、可能だろう。
ただ、古い家にもいま時点で多くの人が住み、生活を営んでいる。課題はそうした家をどう補強していくかで、単に「現行基準並みに補強せよ」といっても、誰もがそう簡単に行えるわけではない。中山間過疎地域であればなおさらだ。
そうした家においても命を守り、復旧に向けた迅速な行動を可能にするという観点に立てば、死者を1人も出さなかった今回の地震は一つのモデルケースとなり得る。拙速な結論は慎み、今後の防災対策につなげたい。被害様相が示すものは多面的だ。
大変形域に至っても倒壊しない、最悪倒壊しても命だけは助けるといった対策も念頭に、大地震時の被害というものをどう評価するか、地域固有の条件下での有効な補強方法はあるのかなど、建築の側から調査・分析し考えていかなければならないテーマは数多く残っている。
(取材は11月28日白馬村堀之内地区)
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