河井良治
決して楽天的な展望ばかりが想定できない住宅市場。その中でビジネスとしての確固たるポジションを築くためのキーワードのひとつが「ブランディング」。
他社と差別化できるオリジナリティの高い切り口で、いかにユーザーに響く強いアピールが進めていけるのか?
その手順と基本的なノウハウをできる限りわかりやすく解説していきたいと思います。
■「ブランディング」って何?
競合会社以上に魅力的なアピールができていない。
伝えたいことが一方通行になってしまっている気がする。
既存のホームページやパンフレットが上手く機能していない。
集客や営業としての手は打ってはいるけど、なかなか成果が出ない。
…などといった工務店としてのPR・販促活動に関して抱えていらっしゃる悩みごと。その改善のサポート、解決のヒントの提供がこの連載の主旨です。
「PRの立て直しはブランディングから…」ということが定説となりつつある時流の中で、実際に「既にブランディングとして動きは進めている」という声は意外と多く聞こえてきます。
ところが、その内容を追い掛けていくと
・社名・ネーミングの改変
・ロゴ・マークのデザインリニューアル
・ブランドキャラクターの開発
・広告や販促ツールでのキャッチコピーや訴求イメージの変更
・製品やサービス、販売ルートの見直し
・ 企業理念や社内への啓蒙手段の再検討
…など、どれも間違いなく大切なことではありますが、その解釈が多種多様に拡散し断片的であることにちょっと驚きます。
「マーケティング」ということばと同様広く過剰気味に浸透している一方で、その理解のされ方や使われ方にかなりの個人差があるのが実情でしょうか。
そこで連載初回としては、改めて「ブランディング」の考え方・進め方の基本にアプローチし、わかりやすく整理してみることから始めましょう。
さて、定義の原点に戻ってみます。
ブランド論の第一人者:ケビン・レーン・ケラー(「戦略的ブランド・マネジメント」の著者)が唱えた説の最も重要な部分を凝縮したものが以下の2項目。
「ブランディング」とは…
● ユーザーに対して企業価値を向上させるための活動のこと。
ユーザーが意思決定を単純化できるように、企業・ブランドにおける製品やサービスの知識を整理し提供すること。
● ユーザーの立場に立った誠実でわかりやすいコミュニケーションが重要で、結果としてブランドへの共感を育成することが大事。
これを見て強く感じるのは、「ブランディング」という活動の主体はもちろん自分たちなのですが、とにもかくにも「ユーザー」ありき。活動の対象者であるユーザーの「目線」や「気持ち」が何よりも最優先の起点であるべきだということ。
併せて、この「ブランディング」というアクションを上手に推進すれば、そこには共感が生まれる。つまり、ユーザーの期待するいいコミュニケーションを成立させることに「ファン」獲得の絶対的条件があると言えそうです。
導入部としての結論をまとめておきます。
●企業・ブランドとして、ユーザーとのコミュニケーションを最適な状態にすること。
これが、何をめざすのか?という「ブランディング」の目標。
そして具体的に何をしたらいいのか?という課題に落とし込むと、
●ユーザーの視点から「誰に 何を どう伝えるか?」を再編し適正化する。
…となりそうです。
■「ブランディング」の進め方
誰に 何を どう伝えるか?
アクションプランはこの順に進めます。
次回以降の連載内容のダイジェスト予告編として、もう少し踏み込んでおきましょう。
スタートは「誰に」。
最初にターゲットをきちんと設定し絞り込むこと。そして深く知ること。
設定したターゲットがどんな環境にあって、どんなニーズや期待を持っていて、何に興味や関心があるのか?
どんな情報に影響され、それをどんな方法やルートで得ているか?
住宅の購入やリフォームに関して、どんな基準で判断や意思決定をしているのか?
…などをできるだけ詳細に把握します。
冒頭で挙げた各種の施策は、あくまで改善のための手段。手段は対象によって変わります。ターゲットが曖昧なまま動き出すと、その成果もぼんやりしてしまいます。
先の通り「ブランディング」の起点は対象者にあります。ターゲットの詳細な情報が、後の具体的な活動や仕掛けなどの設計の大切な素材であり根拠となるわけです。
次は「何を」。発信するコト、いわゆるコンテンツ。
実はここを固めることが最も重要であり最も難しいことでもあります。
ポイントは「行動喚起」。
獲得したいお客さまの「ここと契約したい!」というモチベーションを的確に刺激できるか?
よくある失敗として挙げられるのは、発信する側が「こんなにすごいことができる」と思って投げたことが、お客さまに響かないケース。
要は、自分たちにとっての「できること・やりたいこと」が、必ずしもお客さまにとっての「嬉しいこと」や「期待していること・関心のあること」ではないということ。またそれが、競合となる会社や工務店との比較において、確実にオリジナリティや優位性があるのか? 「ならでは」の付加価値があるのか?ということ。
これらを整備しようとすると、単に発信の内容だけでなく、場合によっては提供する商品の質やサービスの領域、プロセス・仕組み、営業スタイルなど、業務としての根幹からも見直さなければならない可能性が出てきます。大きなエネルギーが必要です。
しかし、そこに着目し着手しない限り、より競争原理が強くなるはずの業界において、中長期的な生き残りも危ういということをわかっておかなければなりません。
理想を言えば、発信側のパワーで「集める」のではなく、お客さまが自発的に「集まる」流れをつくっていかないと、少なくとも持続性のある集客と売上維持は実現しにくいということです。
お客さまにとっての興味や必要のもうひとつ先。それが「共感」。だから動く。
「それっていいねぇ!」と実感してもらえるコトは何?
それを組み立てます。
そして「どう伝えるか?」
お客さまを触発する核ができたとして、それをどう確実に・わかりやすく・魅力的に、何を使ってどういう表現で伝達するかを考えます。
例えば、カタカナだらけの内容でホームページにかっこ良く掲載しても、年配のお客さまには伝わりません。大量の新聞折込みチラシを投下しても、新聞購読率の低い若い世代には到達しません。標準的でありがちなキャッチコピーやタイトルでは、目と耳の肥えた主婦層のアンテナには引っ掛かってくれません。
また、初対面のときと2度目・3度目に会った時に話す内容が違うように、初期の接点と契約をクロージングする段階ではアウトプットすることが異なります。
結局、しっかりと受け止めて欲しい相手とのマッチングを考えた告知・伝達でないと、その良さは届かないということ。
お客さまにとっての理解や納得のもうひとつ先。それも「共感」。だから動く。
「それっていいねぇ!」と実感してもらえるツール・メディア、そしてメッセージは何?
それを組み立てます。
■「ブランディング」のメリット
最後にまとめをもうひとつ。
「ブランディング」に成功したらどんなメリットが生まれるのか?
(1) 企業・ブランドの「いいところ」(=良さ・強み・魅力・個性・ちがい)が シンプルに理解される。
(2) コモディティ化の流れ(価格競争など)に巻き込まれない。
(3) 好感や信頼でつながる固定客・リピート客(=ファン)ができる。
(4) 軌道に乗れば、PRや広告・宣伝のコストと手間が低減できる。
エリア密着型ビジネスだからこそ、より地域性やそこに住まう「お客さまの視点」にこだわることが事業成功のカギを握ります。
ファンづくりは、ターゲットの期待に沿った独自の魅力をアピールする最適なPRから。
引きのある会社、共感されるブランド、ならでは感の高い工務店をめざして…。
次回から「誰に 何を どう伝えるか?」の順に具体的な手順を紹介していきます。
ぜひお付き合いください。
http://www.creativeunity.jp
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。