小村直克
連載の第1回では日本の現場施工の実情を、業界マクロ的視点そしてミクロ的視点において、非常にリアルに実感して頂けたと思います。また、これからの業界環境も想定しながら管理者不足の時代にしっかりとした施工指針の整備やコンテンツのアウトソーシングに着手していくことの有効性をお伝えいたしました。
今まで現場を支えてこられた多くの職人達が、今後、作業化(ワーカー化)の時代に入り、仕事そのものの醍醐味や収益といった両面から、新たな担い手不足の時代に突入し、業界事情の深刻さは益々度合いを増すと思います。ここで今、しっかりビルダー側として受け止めていただかなくてはいけないことが1つあるのです。
それは職人達の仕事の収入問題です。ビルダー側の受注先行、利益重視型経営が強くなるにつれて、すべての建築資材の支給を事業者側が推進し、職人に対して手間請負といった作業スタイルを構築させてきたことが、実は職人難を導いた大きな原点であることを忘れてはなりません。
事業者が資材支給をする行為自体が問題なのではなく、職人から材料収益を取り除いた結果、ビルダー側がその利益を品質管理に投資ぜずに、即効性ある販売促進のために安易なユーザーへのコストダウンに利用をしていく流れが蔓延化したことに問題があるのです。それを補う工程管理精度や原価管理精度、そして納材管理精度まで、現場管理者の仕事環境では追いついていません。それがさらなる弊害になっていることを今、胸に手を当て考えるべきなのです。
施工管理における、本当の無駄やムラはどこに存在するのでしょうか?
職人が年々作業化することで起こりうる弊害を、あらゆる現場で我々は実感しています。
例えば、資材廃棄に関しても以前の材工共の場合、材料取りの工夫も職人側で色々と施され、廃棄コンテナもきっちりしていました。それが作業化することで納材時期のずれ、材料不足、資材間違い等、資材支給ひとつにおいても、職人に対して非常に多くの無駄ムラが見受けられます。
また、営業が受注を2倍上げれば報奨金が2倍もらえるという話がありますが、生産系の部門が2倍の仕事を抱えても、2倍の報酬をもらったという話は耳にしません。
本来、「工務店」はその文字から考えてみても、「工務」を専門的に引き受ける事業のはずなのに、受注先行型経営が重視されるばかりで、経営者側の工務に対する品質追求の本気が、優先順位的に薄れてきたのかもしれません。
そういった生産系の負荷状況から、現場管理者の役割が軽視され、スキルが低下しています。建築時にチェックが施せないことで、引き渡し後のメンテナンス(特に短期的なメンテナンス)コストにも大きな影響を与えているのです。
確かに1%でも安く仕入れることは重要です。しかし、安く仕入れること以上に、工務軽視の副作用が事業を圧迫しているという工務店経営の本質的な問題に目をむけ、取り組まなければならない時期にきたと感じてやみません。
標準施工手引書の存在だけでも、これだけの格差が生まれる
我々は自社における施工指針を構築し、それを工程毎にきっちり項目化し、適時に適合しているか否かをチェックし、できていなければしっかりと自社基準に沿って手直しするといった行為、いわゆる「監査」を推奨しております。
ショッキングなデータがあります。
例えばベタ基礎で、最初に「基礎底盤コンクリート打設前」に監査するとします。おおよそ60項目のチェック項目が存在します。それを我々が、施工基準を定める前にチェックしたところ、全国抜き打ち100社の平均で60項目のうち12.8項目に不具合が見つかりました。つまり、全体の2割近い不具合が100社のビルダー平均として確認できたということなのです。
そしてこのビルダーに対し標準施工手引書を社内で構築した結果、基礎の現場指摘数が平均12.8カ所から5.4カ所まで減少しました。
施工指針を構築することで、現場施工に関する課題がすべて解消するわけではありませんが、職人が持つ各々の人的スキルに左右されることなく、「同じものさし」で一つ一つの仕事を判断できるようにすることは、今の現場環境には非常に有効であることは間違いないのです。
施工品質監査の実施のあり方で、天と地の差が出てしまう!
現場の工程チェック頻度は、我々は10工程毎を推奨しております。この10工程には非常にこだわりがあり、当初12工程、また6工程等、様々なバージョンで実施してまいりました。RC造を除く一般的な木造在来工法や2X4などは、10回未満でもポイントが粗くなりますし、多すぎても現場管理者の管理視点に無理が生じます。その辺りの経験から10工程が生まれてまいりました。
その工程毎にわれわれが第三者監査を実施していくのですが、中には自社で監査を実施したいといった企業さまもあります。本来、自分たちの施工指針に沿って自分たちで管理監督できれば、事業者として本当に素晴らしいと思います。このようなことを実践できる企業さまが1社でも増えればと常日頃から期待をしているのですが、残念ながらそのような企業さまにはまだ出会ったことがないのです。
逆に、自社で監査を実施されるケースは、当然コスト的な理由がほとんどですが、一部、他人に現場をチェックさせたくないといったプライド等が存在する企業さまもあります。ただ残念な結果として、下記のようなデータが出ているのです。
前項で述べた「基礎底盤コンクリート打設前」の監査実施だけのデータを取ると、自社監査を実施しているビルダー平均値が、60項目のうち是正数0.16カ所なのです。この異常に低いデータの理由は、単純にどれだけ素晴らしい施工指針を作っても、会社の作業として落とし込んでしまうと、結果、チェック業務がルーチン作業に陥るからなのです。日々、仕事の優先順位がつかないままチェック入力をする時間もなく、なんとなく会社のトップから叱られてしまうから、適当にチェックをしてしまったり、是正個所があっても伏せてしまう傾向が強いからなのです。
その自社監査実施後に我々第三者の監査をあえて入れると、自主監査では指摘数が平均0.16カ所だったのが、なんと4.6カ所の是正個所が見つかったのです。
第三者監査の利点とは「是正個所を残さず発見するために有効な手段である」ことと、「課題を現場で抽出することで、その課題解決でもって自社の現場管理者や協力業者の教育の一環にしていく」といった成長戦略の基盤になることなのです。
今の日本の施工現場における本当の課題は、問題が見つからないまま完成へ向かい、知らぬ間にユーザーの手へ引き渡され供給し続けていることです。この現実を、我々は少しでも早く解決していきたいのです。
小村直克 Omura Naokatsu 株式会社NEXT STAGE 代表取締役 NEXT STAGEアーキテクト株式会社代表取締役 京都府出身。大阪学院大学経済学部卒。1991年4月 株式会社エスバイエル【旧:小堀住研株式会社】入社。以降、建販商社に転職し、多くの建築会社との長年の取引を経て、2006年8月に株式会社NEXT STAGEを設立。2007年8月には、子会社として第三者住宅検査機関を法人化し、多くの建設現場の各種検査の実践を重ねるが、2013年には検査業務が品質向上には到底つながらない限界を体験し、検査業務を閉鎖。現在、業界初の『住宅品質の安定と向上を具現化する唯一の施工品質コンサルティング企業』であるNEXT STAGE GROUPの代表として活躍中。
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