大島健二
表から見えないように、ひっそりと
かつては下町と呼ばれたここ東上野界隈、いまやオフィスビルや高層マンションが立ち並び、その灯火も消えつつある。そこにポツネンと立ちすくむ一軒の商家、あらわになった建てもの側面。そこからは潤沢な情報量をもった増築(出産)の履歴を存分に読み取ることができる。当初は敷地奥に下っていく片流れの屋根であったろう。1回目の増築は敷地の奥の余っているスペースに、まだその片流れの延長で、軒を伸ばして、壁をつけたといったかわいいものだ。2回目はまだ表通りからはわからないように、おんぶするがごとく2階?3階?を背負わせてしまった。しかしよっぽど片流れの屋根に対する嫌悪感があったのか、壁をモルタルで塗り込め、その片流れのラインを消そうとしている、コレ執念也。これでほぼ空間を埋め尽くした、満足だ、そこでやっとあこがれの“屋上の物干し台”そう、3回目の増築、“これぐらいはみんなやってるんだから表通りから少々みえてもいいだろう”と、ちょっと奮発してアルミの形材でこしらえた。しかし増築を完了した頃には同じ増築を競い合った周りのお友達はみんな立ち退き、3人の隠し子たちが発覚するに至るという、わりと下町では典型的な顛末。
リノベーションジャーナル電子版創刊号から転載
大島健二 oshima kenji OCM一級建築士事務所代表 1965年、神戸生まれ。神戸大学大学院建築学科修了(西洋近代建築史専攻)。日建設計で超高層ビル、官公庁、研究所など担当し、1995年に独立。1997年からバンタンデザイン研究所講師。2000年にOCM一級建築士事務所を設立。
http://www.ocm2000.com/
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