大久保慈
フィンランドの友人たちのことを考えるときによく、ムーミンみたいな性格の人だとか、あの人の行動はスナフキンみたいだなどと思うことがある。もち ろんミーのような元気な女性もいる。時には神秘的なムーミンの世界は、牧歌的でもあり、じつはフィンランド人気質、そしてかの国の人々の生活をとてもよく 表現しているのだ。そしてムーミンママはよく壁の色を塗り替えているし、ムーミンパパはいつも家のあちらこちらを修理している。
2000年代のノキア全盛期は好景気であった。物価が上昇して、とくに首都圏では不動産価格も高騰したし、投資としての不動産の購入も増え、それを 貸す賃貸住宅の家賃も上がった。それに対して自分で住むための住宅のローンに対しては所得税の減税があり、首都圏では住宅の価格への安心感から住宅ローン に対する担保の70%までは購入した住宅自体となる。そんなこともあり、自宅を購入する人たちは多い。最低でも70%、たいていの場合は購入当時と同じく らいの価格で売却できるということは、払ったローンは積立金のようなもの。そうなると人生の段階に合わせてスムースな住み替え、買い替えができるというものだ。
日本ではフィンランドに比べると新築住宅の供給が多く、購入することが可能であるということも中古住宅市場が狭かった要因のひとつだと思う。しかし フィンランドでは建物に関する保存規定、都市計画が厳しく、よっぽど崩壊の危険性でもない限り、都市部の建物を建て替えることはない。だから基本的に都市 部などの立地条件が良い建物の築年数は古く、新築はほとんど無い。逆に新築住宅にこだわるとなると、遠く離れた郊外に行かなければならない。そして近年の 労働価格の上昇に伴って新築住宅の値段が高騰しているのは否めない事実。それに比べると新築から原価消費されたような古い建物は、新築住宅と比べてかなり値ごろなのだ。
もちろん人にもよるのだろが、リノベーションすることによって中身の間仕切りは自在に、オリジナルなものができることの魅力は大きいと思う。ライフ スタイルに合わせた夢の住宅は予算的にも空間的にも中古物件のリノベーションで実現するというのが現実的なところではないだろうか。少しでもこだわりがあ るような人たちはよく、いわゆる、「趣味が合わないような、状態の良い物件」よりは「状態が悪くて安い物件を気分良く壊して改装するのだ。」ということも 耳にする。 これから、そんなフィンランドのリノベーション事情を少しずつ紹介していきたいと思う。
リノベーション・ジャーナルから転載
大久保慈 Okubo Megumi 建築家。1974年生まれ。1998年明治大学理工学部建築学科卒業。2009年ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)建築修士修了。1999〜2012年フィンランド在住にてR-H Laakso、JKMM、K2Sなどの現地事務所勤務の後、2012年から日本に活動拠点を移す。フィンランド建築家組合 (SAFA)正会員。著書に「クリエイティブ・フィンランド-建築・都市・プロダクトのデザイン(学芸出版社)」 http://www.megumiokubo.com住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。