木下斉
衰退したまちの再生事業に携わると必ず出てくるのは、再開発事業である。古い建物を一掃し、新しいものに建て替える。当然建て替えるための事業費を捻出させるために、建物はどんどん大型化していく。大型化が進めばすするほど、それを建てる建設業界は儲かる。しかしその建物が現在のそのまちの経済状況には全く合わずに経営破綻してしまい、まちの再生どころか、まちの破綻を加速させる一端を担ってしまったりすることもある。
ビジネスパートナーでもある、とある地方建設会社のご子息と話していて気付かされたのは、建設業界は基本的に受け身営業で、公共事業のみならず、誰かが「開発しよう」と思わないと仕事が発生しない。逆を言えば、開発して儲かるという環境がなければ本来は仕事が発生しないわけだが、いつの日からか前述のような半公共事業のようなものから、道路建設や公共施設建設のような公共事業ど真ん中というのが先行し、その事業自体が地域活性化に繋がるというロジックになって建てること自体が自己目的化してしまった。
彼は地域にとって必要な公共施設と民間施設の合築施設を想定し、自らそれを仕掛け、まちの再生に大いに貢献している。まちに活力が生まれ、だからこそ建設業が繁栄する。だからこそ、まちが何をすれば繁栄するのかを自ら理解し、仕掛け無くてはならない。造ることから入ってはだめだ、と力強く話す。
かつてのように人口が爆発的に増加し、地域の内需が拡大をしている時には、人々が利用する容積が足りないから「建てることは即ち社会の善」だった。しかし現在のように人口が減少し、地域の内需が減少していく過程では既にある建物を活用しなければ採算がとれない場合が公民共に多くなった。つまり、従来通りに物を単純に建設して空間を供給することは必ずしも善とは限らなくなった。
まちが付加価値を生むための建設業のあり方というのは、単に建てるということだけでなく、建てた後にその施設自体が維持継続できるようなスペックに設定するということが前提。さらにまち自体の経営を意識し、地域からの外貨流出にならないような建材の選定、エネルギー消費などの改善と共に、将来的なコンバージョンなども容易にできるなどの方法が必要となっている。今後は「建てること」ではなく「建てて、維持し、変更すること」までを意識した工法がますます求められるようになるだろう。
そもそもまちづくりというのは一銭にもならない話だから我関せずという人もいるが、今後はまちが持続可能な競争力を持ち続ける環境を作るか、は自らの事業にも直結する経営的かつ合理的な話である。本連載ではその具体的な中身にも迫っていく。そもそも、まちが崩壊してしまえば、建設業そのものが成り立たなくなるのだから、決して無関係な話ではないのである。
(※編集の際に写真の説明に誤った内容が記載されていました。執筆者ならびに関係者の方、読者の皆様にお詫びします。)
リノベーション・ジャーナルから転載
木下斉 Kinoshita Hitoshi 1982年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了(経営学修士。専門は経営を軸に置いた中心市街地活性化、社会起業など)。高校時代の2000年に全国商店街の共同 出資会社である商店街ネットワークを設立し、社長に就任したのを皮切りに、地域活性化に繋がる各種事業開発、関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち 上げる。大学進学後、経済産業研究所リサーチ・アシスタントや東京財団のリサーチ・アソシエイトなどを兼務。2008年より熊本市を皮切りに地方都市中心部における地区経営プログラムの全国展開を開始。事業による地域活性化を目指す全国各地のまちづくり会社、商店街と共に2009年に一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス設立。2010年には内閣府政策調査員を務めるなど、政策立案にも取り組み、2012年からエリア・イノベーション・レビュー( http://air.areaia.jp/ )を毎週発行、2013年からは公民連携事業機構を発足。現在、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一般社団法人公民連携事業機構理事を務める。主な著書に「まちづくりの経営力養成講座」(学陽書房)、「まちづくり:デッドライン」(日経BP)、「コミュニティビジネス入門」(学芸出版)がある。また、新語流行語大賞(「IT革命」)、毎日新聞社・フジタ未来経営賞学生奨励賞などを受賞している。
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