中澤幸介
地方創生と国土強靭
最近、国土強靭化とすり替わるように地方創生の議論が活発 になっているが、国策でもある2つの施策が別々の視点で論じられていることに違和感を覚える。本来、地域を守ることと、活性化させることは車の両輪でなく てはならない。そして、それは国がトップダウンで地域にやらせるものではなく、まずは住民が自分たちで自分たちの街を守り、活性化せていく住民自治の基本 なくして成立しえない。
このギャップを解消する上で注目しているのが地区防災計画制度だ。
地区防災計画制度の概要
今年4月から「地区防災計画」という新たな制度が始まった。地区防災計画 とは、地域に住んでいる住民や、事業を営む事業者が、主体的に自分たちの住んでいる「まち」の防災に関する計画を策定するというもの。行政区にこだわる必 要はない。集落単位でもいいし、商店街でもいい、自治会でもいい、あるいは工業団地だったり、流域、マンションという単位もあるかもしれない。どういう範 囲かは問わないが、自発的に防災活動に取り組める範囲であることが求められる。
似たような言葉に「地域防災計画」があるが、これは住民や事業者がつくるものではなく、都道府県や市町村がつくる防災に関する計画。災害対 策基本法という日本の防災の基本となる法律に基づいて、都道府県や市町村が首長を中心に防災関係機関とともに専門の会議を設け、防災計画をつくる。
さて、なぜ行政がつくる地域防災計画だけではなく、住民や事業者主体の地区防災計画という制度が必要になったのか。
これまでも、自主防災組織はあったし、地域防災計画の中でも、行政のみならず、指定公共機関や、事業者、地域の防災組織、住民の役割や行動について定めている。
しかし、防災の主体は誰かと言えば、決して自治体だけではない。阪神・淡路大震災でも、東日本大震災でも、ボランティア団体や事業者、そして自主防災組織などの住民の共助の力が改めて注目された。そんな彼らこそ、防災の主人公になるべき存在である。その防災の主体となるべき人たちの計画を、自治体が決めてしまっていいのか、という疑問がこの制度の根底にはある。
行政はボランティア組織や事業者、住民に、とても大きな期待をする。しかし、期待をしながらも、実際には行政が計画を決めてしまっている。もちろん、行政マターの視点にならないために防災会議が設けられているのだが、住民の声がしっかり反映されてきたとは言えない。
もっと防災力を発揮できるようにするには、防災の主体である事業者や住民が自分たちで計画をつくって、それを行政も尊重して、一緒に達成できるようにしていった方がいいのではないか、それが地域住民や事業者の権利であり責任なのではないか?
したがって、地区防災計画では、事業者や住民が主体的につくった計画(地区防災計画)を、市町村の防災会議に提案し、地域防災計画に落とし 込める「計画提案制度」という仕組みを取り入れている。地域防災計画の一部になるということは、行政もその計画の達成に協力をしなくてはいけなくなるとい うこと。面倒だと思われている行政職員の方もいるかもしれない。確かに、手続きや住民とのやりとりは増えるかもしれない。しかし、そのやりとりこそ、地域 住民のニーズに耳を傾けることになり、協力・連携を生み出す原動力になるだろう。
地区防災計画のメリット
では、この地区防災計画制度によってどんなメリットが期待できるのか?
これまで隣近所で顔も合せることがなかった地域が、地区防災計画をつくるために集まれるようになれば、その動きはやがて政治すら動かす住民自治の原動力になる。疲弊した地域の活性化案も出てくるかもしれない。
地域でビジネスを展開する事業者がこうした活動を推進すれば、とても多くの信頼という対価が得られるだろうし、万が一、自社が被災した時には、地域の支援が得られるかもしれない。そして何より、地元従業員が安心して働けるようになる。
さらに、行政と住民の会話は増え、さまざまな街の課題が共有されていく。その中から真のリーダーが選び出され、街全体を活性化させていく。これこそが国土強靭化と地方創生の原点ではないか。
地区防災計画学会が設立
この地区防災計画制度を普及していくことを目 的に、今年6月に「地区防災計画学会」という組織が誕生した。会長は神戸大学名誉教授の室崎益輝氏。同学会では、事業者や住民の主体的な防災まちづくり活動を広めていくため、C+Bousai(シー・プラス・ボウサイ)という学会誌を創刊した。Cの意味は、Communityという単語に加え、協力・連携 を表すCooperation、Collaboration、継続のContinuityの意味がある。「C」はまた、市民(Citizen)、事業者 (Company)らがCommunityを支えているという思いも込められている。つまり、防災活動を地域住民、事業者、行政、ボランティア、NPOなど多様な主体が一体となって取り組むことで、住民の生命、生活、そしてコミュニティを守りつつも、地域全体を活性化させていく「+(プラス)」のまちづくりにつなげていくことを媒体のミッションに掲げている。
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