小村直克
消費税増税の波もひとまず落ち着き、むしろ引き潮による受注懸念が高まってきた。
考えてみれば、住宅業界ではこのような波を幾度も繰り返し、その度に新たな制度、そして工法や仕様、また新たなネットワークといった販売手法の創造が常に生み出されてきたのだ。
しかしながら、現場管理について考えてみるとほとんど変化がなく、数十年来、蔓延化した人的な作業委託傾向だけが根付いてしまっているようである。
建築会社の経営の根幹である製造責任という観点から、今の事業者のほとんどが、本質的な家づくりそのものの品質管理を置き去りにしてしまっているのではないだろうか?
たとえ住まい手のニーズや趣味志向、性能、そしてコスト等が変化をしたとしても、製造する品質そのものが変化する訳ではない。
近年、若い世帯層が新築住宅購入を牽(けん)引し、少なからず定年までのローンを抱え、家づくりを実現するユーザーの気持ちを考えるのであれば、『住宅品質』という建築会社としての経営的使命だけは絶対にクリアしなければならない。
そうでなければ、将来的な地場産業の活性化は閉ざされてしまうのである。
『津波のような職人不足の到来』
建築業の基幹である、大工人口だけの推移をみても、5年毎に10万人を遥かに超える減少傾向がみられ、2015年には25万人前後まで減ってくると予想をしている。人口だけではなく、高齢者比率も45%近くまで登りつめてくるであろう。
職種別にみても、型枠業者、左官業者などを筆頭に軒並み減少であり、さらに注目をしなければならないことは、現場管理者の減少なのである。
ここで考えなければいけない重要なこととは、前章で述べた品質管理意識の低下に輪をかけて、さらに職人不足、現場管理者不足という業界事情が、これからの建築業を経営して行く上でどれだけ事業を圧迫してしまうのかという点。それをしっかり想定し、早めに準備して行く必要があるということである。
『人的な施工技能や経験値のムラを解消する、施工手引書の構築が必要不可欠』
緊迫した業界事情に対応して行くためには、今までの現場施工管理の在り方そのものを見直して行く必要がある。いわゆる次世代型施工管理手法である。
スキルの低下、人的要素における品質のムラといった課題を考えると、どの人に任せても、どんな経験値を保持していても、各工程別の施工の納め方、手順、許容範囲といった明確な指針を事業者単位でしっかりと基準化し、マニュアル化を図ることがひとまず必須なのである。
マニュアルのポイントとしては、現場で常に運用され続けるものでなければならない。例えば中堅・大手企業でよくある傾向だが、ディティール集のような分厚い立派なものを作りたいがために、大きな金を出して設計事務所等へ依頼をする傾向をよく見受ける。が、現場でしっかりと運用されている企業を今までに見たことがない。そのような企業に限って、本社の書庫にしっかりしまって飾ってあることがほとんでである。
現在の職人や現場管理者が使いやすい内容にするには、できるだけ文字化せず、図解化すること。また、あまりマニアックにならず、最低限のページ数で品質に関わる根幹的な主要部分を基本にまとめ上げることが重要である。
『現場管理者不足を補うには、第三者的有資格者を活用する』
第三者的有資格者とは、第三者住宅検査機関を利用するという意味ではない。
検査機関が実施する検査業務は、あくまでも建築基準法、または現在の瑕疵担保責任における施工基準に基づく検査でしかない。フラット35適用であれば、フラット35基準の適合内容も追加されているというだけである。
ここに大きい落とし穴があることに注目をして頂きたい。
本質的な現場管理者の視点でみると、法的に明示されている施工基準指針は、現場管理全体の半分以下しか明確に決まっていないということである。つまり、検査会社は法的根拠が存在する部分しかジャッジができず、法的根拠がない領域までの是正や指摘を要請できる権限がないということである。法的根拠のない領域とは、現場管理責任である事業者が判断する領域であるということを忘れてはならない。
そこで必要となるものが法的根拠のない領域までも網羅した標準施工手引書である。そして事業者単位で構築をした基準指針に対して、第三者的有資格者によって適合監査を行うという手法である。
そうすれば、どんな外部の有資格者が適合監査を実施しても、明確な適合基準が存在することでジャッジのブレもなくなり、各工程に従来現場管理者がチェックしていた業務も第三者的監査業務としてアウトソーシングして行けるのである。
小村直克 Omura Naokatsu 株式会社NEXT STAGE 代表取締役 NEXT STAGEアーキテクト株式会社代表取締役 京都府出身。大阪学院大学経済学部卒。1991年4月 株式会社エスバイエル【旧:小堀住研株式会社】入社。以降、建販商社に転職し、多くの建築会社との長年の取引を経て、2006年8月に株式会社NEXT STAGEを設立。2007年8月には、子会社として第三者住宅検査機関を法人化し、多くの建設現場の各種検査の実践を重ねるが、2013年には検査業務が品質向上には到底つながらない限界を体験し、検査業務を閉鎖。現在、業界初の『住宅品質の安定と向上を具現化する唯一の施工品質コンサルティング企業』であるNEXT STAGE GROUPの代表として活躍中。
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