新留 生活臭、タバコ臭、ペット臭にはてきめんに効きます。現にシラス壁の破片にアンモニアを吹き付けて密閉し、20分待つだけであの強烈なニオイが消えますから。何百回と同じ実験をしていますが、効果は変わりません。洗濯物の室内干しでも雑菌が繁殖しません。機能が五感でわかるところがいいんです。
また、他の壁材の場合、いったんニオイを吸着しても温度が高くなると再放出すると言われます。研究機関の調査では、シラスは高温下でも吸着した物質を再放出しないことがわかりました。現在、横浜国立大学と共同で研究を進めていますが、そのなかで消臭・調湿以外にも様々な機能が発見されてきています。
―シラスはまだまだポテンシャルがある素材だと。
新留 研究が終わるまでは確かなことは言えませんが、キーワードは「非晶質」。突き詰めれば液体ということ。シラスは火山灰だと勘違いされることが多いのですが、マグマが空気に触れず酸化しないまま固化したすごく特殊な物質。結晶ではないので何でも受け入れる、来るものを拒まない性質をもつ。様々な機能性はこうした性質から来ていると考えられています。
―伊礼さんのクライアントはシラス壁材の何を評価しているのでしょう。
伊礼 テイストや経年劣化しないところに魅力に感じているという印象ですね。
住まい手は性能より、まずテイストに魅かれるようです。ぼくの著書や作品が紹介されている雑誌、ブログなどで1回写真とシラス壁という名前を見ただけで、シラス壁にしたい、と言う住まい手は多いです。100%自然素材ゆえの白華や地震時のリスク、さらにはコストなどひと通りの説明をして聞くと、「絶対やりたい」と(笑)。そんなクライアントが多いです。
新留 利用者アンケートを見ると、圧倒的に「100%自然素材」が評価されています。先ほど伊礼さんが言われたとおりですね。
―シラス壁をどう使いこなせばいいでしょうか。
伊礼 ぼくは写真の印象からか神経質だと勘違いされることが多いのですが(笑)、塗り壁材の細部の仕上げや施工後のキズにはあまりこだわりません。100%自然素材の壁だからおおらかに使えばいいと思います。ただし、クロスやペンキとは明らかに質感が違うので、それを魅力的に生かせる設計の力量がいります。あたり前ですが、設計がよくないとどんなにいい材料を使っても空間が生きない。設計力のあるつくり手ほどシラス壁の魅力を引き出すことができると思います。
新留 シラス壁は中国、アメリカ、韓国、台湾にも輸出していて、ルーマニア、シンガポールなどにもアクションを起こそうと考えています。私は環境先進国のドイツをはじめ世界中の左官材を見てきましたが、シラス壁ほどの質感と機能をもった材料にはいまだに出会ったことがない。だからこそ世界中にシラス壁を広めたいと思っています。
―世界進出というお話が出ましたが、その他に考えられていることはありますか?
新留 新建ハウジングで連載されている小池一三さんはかつてシラスを「地上資源」と表現しました。言い得て妙、そのとおりです。建材以外でも、東京藝術大学と100%自然素材の絵の具を共同開発したり、農業分野での利活用を進めるなど、衣食住に活路が広がっています。
この1~2年以内に基礎から躯体まですべてにシラスを使った「洞窟の家」をつくりたいと思っています。
伊礼 できたら見に行きます。何ならぼくが設計しましょうか(笑)。
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