大島健二
増築界の異端児「屋根はみな、雨水集まる、谷納まり
ここは西日暮里、昨今婦女子に人気の “谷根千”とは線路を挟んで反対側のエリア。ビルやマンションが建ち並び、下町の面影も残すところわずか。そんな場所に昔ながらの木造家屋が残っているといやがおうにも目をうばわれる。しかも陽当たりの良い角地という最高の居住環境。一見佇まいは控えめだが、そこにはどうしても隠しようのないわがままな増築欲が漏洩しまくっている......。
最初は切り妻屋根の平屋で、ちょっとした庭は青々とした木々でにぎわっていたことだろう。日々庭を眺めながらメラメラと沸き立つ増築欲......その庭に片流れ屋根の2階屋を増築、そこで最大の疑問がさっそくわき上がる。古より “屋根に谷をつくらない”ということはそれ増築の掟。そうでなければ100%雨が漏る。切り妻屋根に2階が食い込んでいる部分だけで十分な“谷”ができているのに、そこに片流れの雨をどんどん流し込む。
さらに懲りずに残った小さな庭にもブロック塀を利用して屋根をかけ……またやってしまった、切り妻屋根の方に雨を流している。そう、この家のほとんどの雨は道路側にある一本の縦樋に集積し道路に排出。おまけに洗濯機の排水ホースもそこにピロッと出ている。嗚呼、狂おしいまでのそのゆがんだ増築欲たるや......。
リノベーションジャーナル電子版創刊号から転載
大島健二 oshima kenji OCM一級建築士事務所代表 1965年、神戸生まれ。神戸大学大学院建築学科修了(西洋近代建築史専攻)。日建設計で超高層ビル、官公庁、研究所など担当し、1995年に独立。1997年からバンタンデザイン研究所講師。2000年にOCM一級建築士事務所を設立。
http://www.ocm2000.com/
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