建築家の伊礼智氏を中心に家づくりの「標準化」を進めるi−works project(=アイワークスプロジェクト、運営:OMソーラー)はこのほど、第2弾モデル「i−works2・0」を愛知県小牧市に完成。7月12・13日にオープンハウスを開催した。
施工は名古屋市で100年以上続く工務店・阿部建設(阿部一雄社長)が、造園は荻野寿也景観設計(大阪府堺市)が担った。
■ i−works projectとは
アイワークスプロジェクトは、建築家が考えた住み心地のいい高性能な家をパッケージ化し、工務店が窓口となって一般の生活者にも手が届くコストで提供する取り組み。
「プレタポルテ(高級既成服)や車などのプロダクトに近いイメージ。住宅の総事業費が年々低くなり、打ち合わせや設計に手間とコストがかかる注文住宅の需要は今後ますます減る。そうしたなか、注文にこだわらなくてもちょっと頑張ればいい家がありますよ、こんな住まいはどうですか?とつくり手側が提案する家づくりがあっていいと思う」と伊礼氏。
設計プランの開発、使用建材・設備の選定を伊礼氏が担当。デザインと材料をすべて「標準化」し、建築家が設計監理に入らなくても完成するしくみを提供することで、打ち合わせから設計・積算、資材調達にかかる手間やコストを省略する。プロジェクトに参加する工務店は、販売と施工に特化できるのが特徴だ。
■23坪の最新モデル「i−works2・0」
「i−works2・0」は延べ23坪、3〜4人家族を想定したコンパクトな住まい。1階には庭とつながるリビングとキッチン、バスルーム、2階に3つのベッドルームと物干しや趣味に使えるインナーバルコニーを設けた。「10年間で光熱費を100万円以上節約できる」(阿部社長)という性能の高さもポイント。
今回の阿部建設モデルでは、車2台の駐車スペースと豊かな庭を配置。建物を敷地いっぱいに配置するのではなく、「小さな家でゆたかに暮らす」ことを提案している。
阿部社長は「建物本体を1950万円で販売できれば」との構想をもつ。生活者にとってみれば、フルオーダーよりも2割以上安値で建築家の家を手に入れられるのであれば、住まいの選択肢が広がる。
■ 工業化製品と手仕事を融合する
「工業化製品と手仕事のバランス」もプロジェクトがめざすもののひとつ。工業化製品をできるだけ使うことで性能とコストを均一化。注文住宅のように納まりや仕上げが現場ごとに異なるということがないため、職人の習熟度が上がり、手戻りやクレームを減らすことができる。また、職人不足が深刻化するなか、個別の能力に左右されずに高品質な家づくりができるメリットも大きい。
たとえば、構造材は山長商店(和歌山県田辺市)の1本ごとに性能表示された無垢のJAS製材、断熱はセルローズファイバーの現場吹き込み、開口部はLIXILの断熱窓「サーモスⅡ」、空気集熱式システムで性能を担保する。伊礼氏がメーカーと共同開発したタニタハウジングウェア(東京都板橋区)のガルバ外装材「ZIG」や雨樋「スタンダード半丸」なども標準仕様として設定している。
また今回新たに、木製の玄関引戸・鎧戸のプロダクト化にも挑戦した。これまでは手加工で枠の足元に銅板を巻いて耐久性を高めてきたが、内側から腐れが起こるという課題があった。そこで一式を工業製品化し、銅板を硬質ゴムに変更。枠込みで工場から運ぶため、大工工事だけで玄関を設置することができるようになった。
パッケージ商品なので、間取りや材料の変更は原則行わない。ただし、「積雪や台風が多い地域なりの工夫があると思うので、ベースのシステムとルールを守りながら工務店が自社なりの色を加えるという余地はあっていいと思う」と伊礼氏は話す。
■ 伊礼氏に聞く、23坪でも狭さを感じさせない工夫
・対角線上に視線を向ける
・家具を床にべったり付けず、浮いたように見せる。
・天井高を抑え、照明も低い位置に付ける。
・キッチン間口は2700もいらない。小さくても食洗機やオーブンレンジを入れて十分機能的につくることができる。
・階段は高齢者がいなければ1間半に。2階の自由度がかなり広がる。
・トイレはリビング脇でなくてもいい。1個しか付けないのであれば、寝室の近くに。唯一のトイレが2階でも不便はない。
・洗濯物と布団ばかりの景色になってしまうので、小さい家にバルコニーは付けない。実際の住まい方に照らしても、最近は半数が室内干しを希望。室内に物干スペース(サンルーム)をつくれば、趣味の部屋としても多目的に使える。
※写真:塚本浩史氏/アドブレイン(一部除く)
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