東日本大震災の際には、多くの住宅・宅地の液状化被害が相次いだことは記憶に新しい。同様の被害が繰り返されないよう地盤に対する評価基準の早急な整備が求められている。
昨年2月に創立された地盤品質判定士協議会(地盤工学会内:東京都文京区)は、地盤認定に関わる新たな資格制度「地盤品質判定士」制度を設置・運営している。この資格制度は、宅地の造成業者と不動産業者、住宅メーカーと住宅および宅地取得者の間などに立って、地盤の評価について適切な品質判定や対策工の提案などを行う能力を有する技術者を、社会的に明示することを目的とするもの。
資格保有技術者には、液状化や造成宅地、地盤・基礎に関する調査から対策まで幅広い知識と経験が必要なのはもちろん、信頼するに足る高い倫理性も要求されるという。
同協議会はこのほど都内で第1回情報交換会と公開セミナーを開催。昨年度の第1回試験の結果報告と今年度計画、資格保有者による実務報告、また関連テーマとして法的な面からみた同制度の解説などが行われ、資格制度を促進・普及していく意思を確認した。
同協議会会長の末岡徹さんは冒頭の挨拶で、「多くの地震を経験し、また今後発生が危惧される首都直下地震や南海トラフ地震を考えれば、国民個々人の基本的財産である住宅と宅地の安心・安全を確保することは喫緊の課題だ」と述べ、同制度の重要性に言及した。こうした目的を達成するため、同協議会では資格保有技術者に対する理解と浸透、具体的には各種技術書や仕様書内への必要性の記載など、最終的には公的な制度(大臣認定資格化)としての法令が整備されることを求めている。
資格保有者による報告会では、諏訪技術士事務所代表の諏訪靖二さんや、復建技術コンサルタント(本社仙台市)の佐藤真吾さんらが発表。専門委員や鑑定人として地盤の建築紛争に関与した経験を数多く持つ諏訪さんは、「地盤に起因する建築紛争は、圧倒的に中小ビルダーや工務店が関するものが多い」と話し、現場において土や地盤に関する知識が不足していると話した。特に盛土と擁壁のトラブルが多いという。次に被害の多い軟弱地盤上の建物のトラブルについて、地盤補強では表層改良と柱状改良の問題が多く、品質管理が重要とした。
佐藤さんは、切土地盤を宅地の条件とし住まいを探していた依頼人と住宅メーカーとの間で起こったトラブルに関する事例について説明。地盤品質判定士(佐藤さん)が地盤図(切盛図)を調べて問題を発見したことで、依頼人は谷埋め盛り土造成地の購入を回避することができたのだという。
こうした地盤に関する知識を生活者はもっていないことがほとんどで、土地購入前にその土地について調査を依頼できる、信頼に足る地盤品質判定士の存在は、今後より必要になるだろうと話した。
建築紛争に詳しい吉岡法律事務所(仙台市)の吉岡和弘弁護士も、消費者は地盤を意識しておらず、大手メーカーも現実の地盤に対し、SWS(スウェーデン式サウンディング)試験を基礎の決定根拠にしている実態があるとした。本資格を有するような専門家が、積極的に住宅・宅地に関わることが地盤の安全上必要だとした。
M&Kコンサルタンツ(東京都千代田区)の大串豊さんは、現行の地盤保険・保証について解説するとともに、地盤品質判定士が関わる際発生するであろう業務リスクについて説明。今後、業務範囲の拡大が予想されることから、そうした課題の抽出と対策の検討の必要性について述べた。
今年度の試験は6月30日(月・必着)まで受付。試験は9月21日(日)に行われる予定で、会場は東京、大阪のほか今年度は福岡会場も追加されている。詳しくは同協議会ホームページまで。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。