緊急寄稿 震災の影響に対する法的対応
匠総合法律事務所 秋野卓生弁護士
つくり手の間で、資材調達の遅れをはじめとする震災の影響に対してどのような法的対応を取るべきか、不安が広がっています。
そこで、新建ハウジングでは、連載いただいてる匠総合法律事務所代表の秋野卓生弁護士に、その点についての解説を「新建ハウジングプラスワン」4月号でお願いしていましたが、緊急性が高いことから、先行して新建ハウジングWEBで公開することとしました。
以下、秋野弁護士からの寄稿文です(新建ハウジング編集長・三浦祐成)。
東日本大震災の被災者の方々にお悔やみとお見舞いを申しあげます。
今回は匠総合法律事務所が3月12日から17日まで受けた法律相談とその回答を整理するとともに、今後の顧客対応にあたっての注意事項をアドバイスしたいと思います(秋野卓生)。
[その1]
資材調達の遅れには合意書・契約書の変更で対応を
震災後住宅会社から受けた法律相談で、現時点で一番数が多いのが、建材の納入がなされないことに対する法的対応についての法律相談です。
大別すると
1)請負契約を締結した後で現在工事中の案件
2)これから請負契約を締結しようとする案件
―に分けられます。
[ケース1]
請負契約締結後現在工事中の案件で建築資材の納入の
見込みがなく工事再開の目処が立たないケース
1 合意書の締結が大事
このケースの場合、まずは、顧客との請負契約について、工期延期の合意書を交わすことをお勧めします。
また、しばらく時間がかかるようでしたら、「工事中止の合意書」を交わすことをお勧めいたします。
合意書を交わすメリットは、後々、顧客から工期遅延に基づく損害賠償などのクレームを予防する点にあります。
2 天災地変では損害賠償義務は発生しない
今回の大地震は天災地変というべき事態であり、この天災地変を直接の原因として工期遅延が生じたとしても「請負者の責めに帰すべき工期遅延」は存在しませんので、住宅会社において工期遅延に基づく責任を負わないこととなります(損害賠償を注文者に対してする必要はありません)。
この点は、合意書によりしっかりと確認して頂きたいと思います。
3 期限の定めのない合意も有効
今回の大震災による混乱はいつ納まり、建材流通がどのように回復していくのか、未知数な状態と言わざるを得ません。
建材入荷の予定が確実に立っているようでしたら、純粋に変更した工期(着工日・完工日)について変更日を合意すれば良いと思います。
ただし、今回の大震災は、
1)各建材工場にて計画停電が予定されていることから工場稼働ができない
2)大打撃を受けた状況であり今後の見通しが立たない
―など、まさに生産側においても混乱をしている状況ですから、住宅会社における工期については見通しが立たないというのが実情であろうと思います。
このような非常事態ですから、請負契約上の工期については、一度、「工期の定めのない」請負契約に変更する必要があると考えます。
工期延長の合意に関する書式例のPDFデータはこちらからダウンロードできます。
※出所:匠総合法律事務所:自社の判断でご参考・ご活用ください
[ケース2]
これから請負契約を締結しようとするケース
1 契約書の工期の記載を変更する
今まさに多くの住宅会社では、契約直前の顧客とどのような契約を締結すれば良いのかという点について、不安を覚ていることでしょう。
事態が落ち着くまで契約はしないというわけにもいきませんし、契約を締結したらその契約内容に拘束されてしまうわけですから、資材調達のスケジュールがまったく立たない現状で、中途半端な合意もできないと悩まれている住宅会社は多くいます。
この点は、まず、請負契約書の工期の記載を変更するところからスタートして頂きたいと思います。
具体的には、契約書を締結する際、今回の資材搬入の不明瞭な状況を受け、工期の記載を
平成 年 月 日着工
平成 年 月 日完工
とするのではなく、
着工日 資材納入スケジュールが立ち次第、甲乙協議の上決定する
完工日 着工日から●●日
という記載に変更いただき、着工スケジュールが立ち次第、協議の上、着工日を決定するという方法で対応することをご検討頂きたいと思います。
その上で、契約書特記事項に
「東日本大震災により建築資材の調達の日程が不明確な状況にあります。着工日については、資材納入スケジュールが立ち次第、甲乙協議の上決定します」
との特約条項を入れておくと良いでしょう。
また、上記の記載内容については、顧客に対して丁寧にご説明をいただき、ご了承を頂いた上で契約をしていただく事も重要です。
2 工事中止のリスクの説明も大事
工事途中に建材が入荷せず工事がストップしてしまう可能性があります。
この工事中止のリスクについては、明確に顧客に説明するとともに、請負契約書の特記事項にその旨記載頂きたいと思います。
[書式例]
平成23年3月11日に関東及び東北地方にかけて発生した大型地震の影響により、工事途中において建材の入荷ができない、職人の手配ができない等の事情により工事が中止となる可能性があります。この場合、お客様と工期について再協議させていただくこととなりますので、あらかじめご了承ください。
3 工事を中止すべきか・進めるところまで進めるべきか
たとえば、構造材は確保できたので上棟までは工事を進め、その後の工事も順調に進めることができたが、サッシが現場に入らず工事中止に至ったとしましょう。
サッシが現場に入らないことから、開口部をブルーシートで覆って養生をしなければならなくなるわけですが、工事中止期間中も請負人は善良な管理者の注意をもって現場を管理する責任を負っています。
一度、ブルーシートを掛けたっきりでしばらく放置をしていたような場合など、善管注意義務を果たしていないと判断される場合には、住宅会社が雨漏りによる損傷について責任を負う可能性はあります。
ですから、確実に工事が途中で中断してしまうことが明らかである場合には、中途半端に工事に着手せず、一度顧客との協議により工事を着工前に中止するのも一方法であろうと考えます。
[その1終わり。その2に続く]
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