若手設計士のみなさんこんにちは。
今までさまざまな角度から、住まいのすてきな場所とつながりを見てまいりましたが、ここでちょっと考えてみましょう。住まいの魅力を直接作り出している物って、いったい何なのでしょうね?
窓は住まいの魅力の最大の鍵
おそらく答えは無数にありそうです。高い天井、豪華な家具、木肌の魅力、夏涼しく冬暖かい、来客を歓迎できるゆとり、たくさんの収納、などなど。それこそ住まいの要素すべてが魅力に大なり小なり関わっていることでしょう。
が、そんな中で私はあえて言いたい。住まいの魅力に関わる要素の中でもっとも影響力の大きいものはズバリ、窓なのではないか、窓こそが魅力に大きく大きく関わるのではないかと。
もちろん極論なのはわかります。要素を一つに絞ること自体強引ですものね。けれども、まったく同じ間取りの住まいでも、窓の設け方次第で魅力は倍増したり半減したりもするのです。
窓の大きさと並べ方で住まいはこんなに変わる
ここで下の絵をごらんください。私が描いた架空の一室です。

【図1】住まいの一室その1
よくある、ごく普通の部屋です。特に違和感はないけれど、なんとなく無表情な感じがしませんか。この部分はどんな場所になるのだろう、家具はどのように並べるだろう・・・特に特色もなく、ここから生まれるすてきさはなかなかイメージし難い。
ではもう一つの絵をごらんください。上とまったく同じサイズの部屋です。

【図2】住まいの一室その2
今度はあえてメリハリを効かせて描きました。窓の設け方の違いが一目瞭然ですよね。
窓の存在感がグッと増しています。そして同時に壁も、いかにも「THE 壁!」という存在感が出てきました。
窓の違いだけで部屋の雰囲気はガラリと変わる。この2つの絵からそれがおわかりになると思います。
窓の配置や大きさによって、場所の魅力は大きく変化します。つまり設計者は、住まいをより魅力的にするためにこそ窓の配置や大きさを決めるのだ、ともと言えるでしょう。
前置きが長くなりましたが、今回は魅力ある場所づくりをしている窓を紹介してまいりましょう。
開けるところは思い切り開けよう
まず下の2枚の写真をごらんください。

【写真1】押立の家 設計・前田哲郎/前田工務店(写真・西川公朗)

【写真2】八幡の家 設計・本田恭平/mononoma(写真・野村宜弘)
ともに大きな窓を設けています。ここにはたっぷりと明るさが注ぎ込み、庭を見渡すことができます。外とフラットにつながっているので気軽に庭先に出ることもできます。
窓は天井いっぱいのフルハイトで設けているので、存在感がますます際立っています。
閉じるところはしっかり閉じてメリハリをつけよう
さらに下の2枚の写真をごらんください。
ともに大きな窓を設ける一方で、閉じる部分は壁でしっかりと閉じています。

【写真3】押立の家 設計・前田哲郎/前田工務店(写真・西川公朗)

【写真4】可児の家 設計・本田恭平/mononoma(写真・山内紀人)
はじめにお見せした絵で触れた「メリハリ」とは、こんな感じのことなんですね。
これらの部屋の魅力の大きな理由は、窓の設け方にメリハリをつけているからなのだと言えます。
部屋は明るくしたい。景色も見せたい。けれどもあっちこっちに半端に明るさや隣家が見えてしまうよりは、見せたい景色、つなげたい庭、明るくしたい場所だけに着目して、そうでない部分は壁でしっかり閉じてガードする。これがメリハリの「極意」なんだと思います。
さらに、どの部屋でも壁がとても魅力的な存在になっていますよね。単なる脇役ではなく、もっともっと積極的な存在になっています。
そう、窓を考えるのって実は、壁について考えることでもあるんですね。窓と壁はとても親密で対等な、言わば住まいの「飛車と角」なのです。
プランニングの際に耐力壁の配置を検討するのはとても大切ですが、もしこのときに「飛車角」が少しでもヒントになったら、きっとお手元のエスキースはさらにすてきな住まいに育ってくれるかもしれません。
「開く」「閉じる」を外観にも生かす
窓で開いて壁で閉じるというメリハリをつけると、外観にもまたすてきなメリハリが生まれてくれます。下の2枚の写真はまさにそんな例です。
室内では開く・閉じるのメリハリがしっかり効いています。寝室という用途にピッタリな位置に窓と壁が設けられています。

【写真5】巾の家 設計・本田恭平/mononoma(写真・山内紀人)
では外観を見てみましょう。明るいグレーの屋根の住まいです。窓と壁がきれいに交互に並んで、独特のリズム感をもたらしてくれていることがわかります。
実際のプランニングではどうしても内部の機能や要求を中心に進めて外観は後回しになってしまいがち。ところが内部目線でしっかりとメリハリをつけておくと、その住まいのキャラクターが外観にもしっかりと表れてくれるものなんですね。

【写真6】巾の家 設計・本田恭平/mononoma(写真・山内紀人)
狭小敷地も予算も心配しないで
今回は窓と壁のメリハリで魅力をつくり出すお話をしましたが、いかがでしたでしょうか。
みなさんはもしかしたらこう思われるかも。広い敷地や広い家ならともかく、小さな敷地や小さな家で大きな窓は難しいのでは・・・。
私はむしろ逆に考えます。小さい敷地と住まいだからこそ、大きな開口でどんどん外とつなげて行く。そして内と外とをできるだけ一体にして行く。そうすれば、住まいは実際よりもうんと広々と感じることができます。
庭は小さくたって大丈夫。奥行きが小さくても横方向の広がりを演出することで、パノラマ的な広がり感が強調されてくれるのです。
そうだ、このお話、ぜひじっくりしたくなってしまったので、次回に作例とともに改めて語らせてください。
あるいはみなさんはこんなことも思われたかも。どの写真の窓も大きいし木製の窓まであるけれど、これではとても予算が合わないよ・・・。
これもご心配に及びません。今回は話がわかりやすいように、かなり思い切った例ばかりを紹介したのです。実際には必ずしもフルハイトでなくたって、欄間窓を設けるなどの工夫で同じような効果は得られます。六尺間の欄間付きアルミテラス窓だって、九尺間の引き違い四枚立てだって十分行けますよ。
それに今、サッシュメーカーでは「大開口」がブームまっただ中。以前よりもリーズナブルに導入できそうです。
窓の魅力、まだまだたくさんあります。
次回もまた、すてきな窓とすてきな場所をたくさん紹介いたしますね。
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