「ニットのまち」として知られる新潟県五泉市の設計事務所・塚野設計はこのほど、田園風景が広がる同市内の村松地区に、空き家を活用した一棟貸しの宿泊施設「SET10宿(セッテン・やど)」をオープンした。
名称には「五泉市の自然や文化の魅力を発信し、都市と田舎、日常と非日常、人と人との“接点”になるように」との思いを込めた。
コロナ禍をきっかけに、地元をフィールドとし、建築のスキルを生かしながら、地域課題の解決にもコミットするローカルビジネスに可能性を見いだした代表の塚野琢也さんは「事業を通じて、少しでも地域の活性化に貢献できれば」と思いを語る。【編集部 関卓実】
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のどかな田園風景が広がる五泉市村松地区にオープンした「SET10宿」(写真中央の道路わきの建物) | 築50年の古家をリノベーションした「SET10宿」の外観 |
SET10宿は、10年以上空き家だった、隣に農業用の倉庫を備える築50年の古家を取得しリノベーションしたもの。米どころ・新潟らしい田園風景が広がる場所にあり、塚野さんが幼いころから釣りや川遊びで慣れ親しんだ仙見川がすぐ近くを流れる。
塚野さんは「近くに有名な観光スポットはないが、だからこそこの施設でゆっくりと流れる時間に身を任せれば、大きな自然の一部になったような一体感を味わえる」とし、「都会の喧騒を逃れて“非日常”をゆっくりと過ごしたい人におすすめの場所。
もちろん、川遊びや森の散策など気軽に豊かな自然とたわむれることもできる」と話す。
リノベでは、雨漏りのあった部分を減築した延べ床面積約150㎡について、耐震性や断熱性を向上させた。耐震に関しては、無筋の布基礎はコスト的に改修できなかったものの、壁や床、天井を構造用合板によって補強し、上部構造評点1.0以上を確保。
断熱については、壁にグラスウール100㎜厚、屋根に同155㎜厚、床(大引間)にネオマフォーム60㎜厚をそれぞれ充填し、HEAT20・G1程度の性能にした。
コストを抑えて快適に滞在できる空間へと生まれ変わらせながら、長年にわたり風景の一部としてなじんできた建物の歴史の継承を考慮し、屋根瓦や地マツの梁組など「残せるものは残した」(塚野さん)。
外壁として張った無垢のスギ材は無塗装の素朴な仕上げ。室内は床にチークパーケットを張り、壁はクロスをベースとしつつ、一部に漆喰を塗った。
「より多くの人に施設について知ってほしい。楽しみながら建築の作業を体験してほしい」と、内部の解体や漆喰塗りの作業についてはDIYの参加者を募集。
新潟大学で建築を学ぶ学生や、塚野さんが活動に参加する新潟県内の建築業界コミュニティ・住学の仲間、地域の人たちなど、さまざまな人が現場作業に加わった。
事業再構築補助金を活用 本格サウナで疲れ癒す
施設の利用者に対して「日ごろの疲れを癒し、心と体の状態を整えてほしい」との思いから、フィンランド・ハルビア社製の本格的な電気式サウナを導入。サウナルームは無垢のヒノキで造作した心地いい空間としつつ、外気浴を満喫できる広いオープンスペースを設けた。
塚野さんは、昨今のブームでサウナの愛好家が増えていることや癒し、健康への効果も踏まえて、「ただ熱いだけのドライ式ではなく、ちゃんとロウリュができて、水蒸気と熱による湿潤な状態をつくることができる設備にこだわった」と説明する。
また、広く機能的なキッチンも備えており、家族やグループで自炊を楽しむことができる。今後は、地域の生産者と連携して「地元産食材セット」を提供(販売)することも計画しているという。
土地・建物の取得費やリノベの工事費など同施設の整備にかかった総事業費は・・・
この記事は新建ハウジング3月30日号6・7面(2025年3月30日発行)に掲載しています。
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