「吉野林業」で知られる奈良県吉野郡から生産される高品質の天然乾燥材(スギ・ヒノキ)、木の目利きや墨付け・手刻みといった大工の伝統的な技術、それらのメリットと魅力を生かしながら、年月を経るごとに味わいを増していく「住み継がれる木の家」へと収れんさせていく設計力――その3つがよどみのない流れとしてつながっているのがツキデ工務店(京都府宇治市)の家づくりだ。
新築戸建てが厳しいとされる市場でも、「上質な木の家」を求める顧客の心をつかみ、宣伝コストをほとんどかけていないにも関わらず、1年余り先までの着工枠が埋まる人気ぶりだ。社長の築出亮さんは「安定的な経営基盤を固めながら、自社の家づくりにとどまらない広い視点を持ち、社会的な使命として大工の育成と技術の継承にも取り組みたい」と力を込める。【編集部 関卓実】
同社が構造材に用いる天然乾燥材は、奈良県吉野郡から調達する。土台・柱には樹齢80年程度のヒノキ材を使用し、柱のサイズは4寸角。梁には、樹齢130年程度の大径木からつくる梁せい240~300㎜のスギ材を用いる。近在で高品質の天然乾燥材を安定的に入手できるのは、つくり手としての大きなアドバンテージだ。築出さんは「全国的にも知られている良材を生産する“吉野林業”が近くにあり、恵まれていた」と話す。
全国的な知名度のある吉野林業だが、築出さんによれば「奈良県吉野郡の広いエリアで行われている林業が、ひとくくりに吉野林業と呼ばれているが、もともと樽・桶の製造や社寺建築に用いる目(年輪)の詰まった木材をつくるために始まった多密植、多間伐、葉枯らし乾燥を行うのが本来の吉野林業であり、実はそれを忠実に実践しているエリアは、吉野郡のなかでもごくわずか」という。
一般的には、1ha当たり3000~4000本を植林することが多いが、吉野では8000~1万本を植林する。そのため、普通の人工林では樹齢が80年ほどに至ると皆伐されるケースが多いが、吉野林業では250~300年間にわたって延々と間伐が続く。間伐材は、山で倒して半年~1年半かけて葉枯らし乾燥を行ってから搬出する。同社では、そうした手間がかかった吉野材を家づくりに用いる。
手刻みだから可能な強さと耐久性
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奈良県吉野郡に根付く“吉野林業”によって生産される天然乾燥材を墨付け・手刻みなど大工の伝統的な技術によって加工しながらつくるツキデ工務店による住宅事例。年月を経るごとに風合いを増し、世代を超えて住まい手が豊かに、快適に暮らすことができる「住み継がれる木の家」を目指している |
高品質で美しい天然乾燥材を使いこなすために、墨付け・手刻み加工といった大工の伝統的な技術は欠かせない。同社は4人の社員大工と8人の専属大工を擁し、常に技術力の向上を目指すと同時に、若手の育成にも力を注ぐ。築出さんは・・・
この記事は新建ハウジング2月20日号4・5面(2025年2月20日発行)に掲載しています。
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