別冊「月刊アーキテクトビルダー」のポイントを、大菅力さん(取材・編集担当)と編集部・松本めぐみが解説する本誌の「出張版」。2025年ももちろん続きますよ。25年1発目は、注文住宅への強い逆風に耐えるために必要な“力”について解説します。
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Topic1 縮小市場で売上を確保する方法
大菅 市場が縮むと売り伸ばしは非常に難しくなります。今までとは違うことをやって売り上げを補填するのが基本。注文住宅では価格帯(顧客層)を広げることになります。
松本 安い家から高い家まで対象にするんですね。
大菅 安い家は、端的に言えば規格住宅ですね。建物のかたちや間取り、仕様などの決まりごとを厳格に適用する住宅が提案され始めています。
松本 ん?それはもう注文住宅ではないですねぇ。
大菅 注文住宅と言っても、建ってしまえば多くの家は似たりよったりです。オーダーメイドでなければ実現しない要望を持ち合わせているお客様は実は少数。日本の注文住宅はプロセスがオーダーメイド(オーダーメイド気分にさせてくれる)なだけで、モノは規格住宅なのです。
松本 インフレで「気分」にお金を払えなくなったので規格住宅の提案が増えている。でもヒット商品は少なそうですね。
大菅 住宅業界には商品力が不足しています。アパレルや飲食店だと、衣類や食事に期待されるものは決まっていても、お店や商品によって細かな違いを設けて一生懸命売ろうとしていますよね。
松本 それが本来の差別化で商品力だと。
大菅 規格住宅はその域に全く達していないですね。最も簡単な差別化は価格ですが、注文住宅との価格差も中途半端です。なので、まだヒット商品が少ないのです。
Topic 2 違いの少ない家をどう売るか?
大菅 少し前まで有効だったマーケティング、特にウェブマーケティングの効果が落ちています。圧倒的な買い手市場で、買い手が好きなだけ住宅会社を選べてしまうので、最終候補に入れなければアプローチされなくなりました。他分野に比べて商品の違いは少ないとはいえ、ないわけではありませんので、インターネットで事前にその細かい内容をチェックして、3社程度に絞り込んでから動きはじめるのが今の施主です。
マーケティングが効かないと集客は減るので、売り上げを保つには成約率を高めるしかありません。それは営業マン個人の技量によるもので、手法としては先祖返りですね。この業界がマーケティングに血眼になる以前は営業一本足打法でしたし。
松本 ハウスメーカーや大手ビルダーが規格住宅による低価格化や営業人材の強化に取り組む中、中小工務店はどのように戦うべきでしょうか。
Topic 3 中小工務店が勝ち残る方法
大菅 中小工務店は、大手がやっていないところで戦うしかないのが大原則です。それは何かというと「商品力」です。中小工務店は必要な受注棟数が少ないので、家に個性を出しやすい側面はあります。好きな人が必ず買う商品をつくることに必死になること、これが生き残る方法です。
松本 プロダクトアウトで家をつくるべきということですか?
大菅 正確に言えばその手前の問題です。自社ならではの商品をつくるには「開発力」が必要です。商品づくりは企画と生産に大別されますが、まず企画力を強化しましょう。企画力は、簡単に言えば設計力です。各種性能や大きさ、かたち、間取り、素材、設備を、どのようなコンセプトで、いくらで提供できるか取りまとめる能力を身につけましょう。
松本 設計力が高まると、家づくりのどこが変わってくるのでしょうか?
大菅 簡単に言うと脱・仕様ですね。設計の力が足りない会社は建築家のような作家性を表現できないので、オリジナリティを訴えるために仕様に頼りますが、インターネット時代では差別化できません。企画・設計力があれば、どんな材料を使っても「◯◯工務店らしい」家づくりが可能になります。
松本 住宅不況のなか、業績のよい中小工務店はそこができている会社のようにも見えますね。
大菅 その通り。その上でマーケティングもやるべきことをやっている会社は、問い合わせの前段階で絞り込まれた3社に入ることができ、成約率も高いように思います。
Topic 4 いまどきの注文住宅における顧客ニーズ
大菅 コンセプトを固めるにあたっては、顧客の動向を知ることも大事です。今さらですが、圧倒的なニーズはラク家事です。ラク家事の内容や優先順位は施主ごとに異なるので個別対応が大事。施主それぞれが省力化したい家事に合わせて「〇〇動線」と命名して伝えると、成約につながりやすかったりするようです。
松本 インテリアはどうですか?
大菅 基本はナチュラルデザイン、かつミックスデザイン(和と洋、新旧などが混ざったデザイン)です。色やテクスチャーで言えば、昔は木のテクスチャーと白の壁・天井だったのですが、最近は木のテクスチャーと中間色が主流になっています。
松本 一部に見られる「きざし」は何かありますか。
大菅 「遊びの要素を設ける」というところでしょうか。隠し扉やつくり込んだ飾り棚などが多いようですが、ハンモックや滑り台を入れたり、キャットウォークをつけたり。植栽やインドアグリーンなどもあります。むしろ設計側から提案して、喜ばれて受注に近づくという側面もあるようです。もちろん相変わらず高性能志向も強いですが、当たり前にやるべき部分としてとらえたほうがいいでしょう。差別化要因にしたいなら、振り切った性能の家を、値ごろ感がある価格で提供できる工法・施工体制が必要でしょう。
松本 やはり最も大切なのは施工のマネジメントの力なのですね。
大菅 その通り。そこに企画が加われば最高ですよ。
この記事は新建ハウジング2月20日号16面(2025年2月20日発行)に掲載しています。
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