災害時の避難や救助、物資輸送では、円滑な道路交通が欠かせない。阪神・淡路大震災をきっかけに選定が始まった「緊急輸送道路」の耐震化が進み、地震への備えが強化された。一方で、道路の閉塞(へいそく)を防止するための無電柱化は遅れが目立ち、国土交通省は対策を急いでいる。
阪神大震災では、被災地の道路交通がまひした。阪神高速3号神戸線では橋脚が折れ、635メートルにわたって横倒しになり、並行する国道に崩れ落ちた。阪神高速では落橋も発生し、被害箇所全ての復旧に約1年8カ月を要した。こうした状況により、救助活動や物資輸送が停滞した。
震災の教訓から、国交省は緊急輸送道の優先的な耐震化に着手。高速道路や国道、これらの道路をまたぐ道路橋を含め、落橋・倒壊の防止対策に取り組み、2021年度までにおおむね完了した。さらに、道路に段差が生じて通行に支障を来すような被害の軽減に向けた耐震補強も進めている。
他方、急務なのが無電柱化だ。国交省は、電線の埋没工事に当たる自治体を財政面などから支援。市街地にある緊急輸送道の約2万キロで優先的に対策を講じている。ただ、事業着手率は23年度末時点で約45%にとどまる。25年度までに52%へ引き上げるのが目標だ。
無電柱化が難しい要因として、市街地ほど水道管やガス管など既に地中に埋まっている物が多く、関係者との合意形成に時間がかかることが挙げられる。交通量が多いところでは、作業時間が深夜や早朝に限られるといった難しさもある。費用の高さもネックで、国交省調査では、埋設による無電柱化の場合、1キロ当たり約5.3億円に上る。
国交省担当者は現状について「スピード感に課題がある」と指摘。コスト削減や工期短縮につながる技術開発を推進するとともに、緊急輸送道には電柱の新設を認めないといった規制策も講じて、対策の加速化を図る。
このほか、道路が損傷したり、樹木などでふさがったりする事態も想定し、早期復旧に向けた備えも進めている。国交省出先機関の地方整備局と各都道府県は24年中に、復旧作業の優先箇所や事業者の役割分担、必要な機材の保管場所を盛り込んだ「道路啓開計画」の策定を完了。地元建設事業者を交えた机上演習や訓練も展開する。
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