工務店さんに技術指導する際は「自社を1行で紹介するキャッチフレーズを教えてください。ないならつくってください」とお願いしています。その際、あったとしても「お施主様とともに楽しい家づくり!」の如く、ふわっとしたフレーズがある、もしくは何もない、というのが大半を占めます。この状況で真っ当な利益を得ながら受注しようとするからたいていの住宅会社が受注、集客に苦労していることに気がついてないように見えます。
ここで「キャッチフレーズ」といった時点で、聞く側には潜在的に「そんなもの、あってもなくてもいいじゃん」と思わせてしまっていることに気がつきました。そこで、どう言えば伝わるかと考えたところ、最も適切な言葉は「看板メニュー」であると考えました。
いつもながら飲食店に例えますが、おいしくて流行っている飲食店にはたいてい「看板メニュー」が存在します。“そのエリアで、そのメニューに関しては右に出るもの(店)がいない”。これが看板メニューの定義だとお考えください。それなしで流行っている飲食店もなくはないでしょうが、ある方が圧倒的に有利であることはお分かりいただけると思います。
その看板メニューを考えていただくにあたり、多くの方に指摘することが以下のような事項です。
①自社の強み(同エリア内で他社にはできない・自社が優位に立てる)の開発、および認識がほとんどできていない
一例をあげると「夏涼しく冬暖かい住宅をつくります!」という工務店さんはそれなりにいますが、「一条工務店でもできますよね…」の一言で撃沈です。
それを聞くと「夏涼しく冬暖かいデザイン住宅をつくります!」に変更してきます。確かに、これだと一条工務店とは明確に異なります。ただ、本当に「デザイン住宅」と呼べるレベルまでデザイン(設計力)が洗練されているのか?デザインは、言葉の説明力ではなく、ウェブサイトの施工事例で判断されます。言行一致していない段階で一気に信頼を失うので、設計力に自信がないのであれば「デザイン」とかそれに類することは、結局は書けなくなってしまいます。
②デザイン、設計力がないと「大工」や「材木屋」、「一級建築士」というフレーズを並べたがる人がたくさんいる
お施主様が知りたいのは「大工出身の工務店にはどういうメリットがあるのか?」「材木屋が工務店をやっているならどういうメリットがあるのか?」なのは言うまでもありません。
しかし言っている本人はそれに気づいていません。また「一級建築士」という言葉が与えるイメージは「高い設計力」であることが多いです。しかし実際には資格を持っているだけで、高い設計力は伴っていない会社がたくさんあります。これも言行不一致なので看板メニューにはしないのが無難です。
③「看板メニュー」をつくったら、その看板メニューがどれだけのこだわりをもって実現されているのかを伝えきる必要がある
例えば「高断熱」や「省エネ」という言葉が一言も出てこない住宅会社のほうが少ない時代になりました。飲食店であれば、看板メニューは1000円も支払えば体験することができます。よってこの過程は一見さん以外には必要ありません。しかし、住宅は建て終わって、住んでみるまで体感することができません。
それだけにその看板メニューが、看板メニューであるためにどれだけこだわり抜いてつくっているのかを「変態」と感じられるレベルまで徹底的に説明する必要があります。たいていの工務店においては、これが高断熱・高気密、耐震等級3、制震ダンパー、〇〇工法…というありきたりなキーワードの羅列で終わってしまっています。
手前味噌で大変恐縮ですが、高断熱住宅という分野において松尾設計室は一定の存在価値を示すことができていると考えています。そうなるために過去20年に渡って、どれだけブログ、Facebookの投稿、書籍、記事などを書いたり、講演してきたかということは、この連載を読んでくださっている皆様ならご存知かと思います。
要するに、看板メニューを食べる前に美味しいと思ってもらえるようにするために、看板メニューの実現に対し、変態レベルで取り組んでいると感じてもらうところまで極める必要がある、ということです。
④自社に強みがないにも関わらず「大ぼら」に近いフレーズを安易に並べてしまっている
例えば「100年住宅」などが該当します。本気で100年住宅を目指すなら相当の技術的担保が必要ですが、安易に書いている会社に限って裏付けが何もない。
仮に、私が100年住宅と謳うのであれば、水害時の浮遊対策、ガルバリウム鋼板ではなくステンレス鋼板の採用。ガルバを使うなら0.6㎜厚以上、窓の取り付けは半外ではなく交換しやすい内付け納まり、G3を上回る超高断熱、可変性のあるスケルトン・インフィル構造、飽きのこないデザイン、広めの設計、コンクリートのかぶり厚さを増やす、コンクリートの強度アップ…他にもいろいろ考えられますが、このようなことを盛り込むと思います。そしてそれをきちんと説明します。
ここまで説明すると、「看板メニューは性能面でなければならないのか」と思うかもしれません。しかしそんなことは一言も言っていません。
もちろんいつも言うようにG2、耐震等級3、耐久性はどの家でも実現すべきだと思います。しかし皆がやろうとしているだけに、もはやこの3項目だけでは看板メニューとして足りえません。
まだ看板メニューを確立できていない、という住宅会社は迅速かつ必死につくる必要があります。また、確立できていても説明ができていないという会社は、きちんと分かってもらえるサイトをつくる必要があります。SEO対策よりも、宣伝広告費の分配よりも、こちらのほうが全くもって先なんだ、ということに気づいていただければ幸いです。
※本記事は新建ハウジング2023年3月10日号掲載の記事を再編集して再掲したものです。
【締切間近】松尾氏が個別指導!3カ月間の短期集中プログラム
工務店ごとの「核(看板メニュー)」を作り拡散し続ける方法を伝授します。
『金を払ってでも発信すべき核を作り拡散し続ける方法』
詳細・お申込みはこちら>>>https://www.s-housing.jp/archives/367216
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。