若手設計士のみなさんこんにちは。
前回に引き続き、今回も住まいの「脇役」の場所をすてきに作った例を紹介いたします。
収納スペースだって楽しく作りたい
住まいの中でもっとも地味な脇役は、おそらく納戸や物置などの収納スペースでしょう。けれども収納スペースもまた、さまざまな工夫によって楽しい場所に作り上げることはきっと可能なはずです。
下の写真(【写真1】)は玄関ホールの様子ですが、アーチ状の可愛らしい開口が真っ先に目に入ります。実はこの中は納戸になっているのです。
玄関は家族の出入りが集中する場所なだけに、けっこういろいろな物を置くスペースがほしくなります。上着、装身具や外出時の持ち物など、出かける直前に身につけ、帰宅直後にしまうような物ですね。これが意外に多いんです。
当然収納スペースへの出入りは頻繁になり、急いでいる時の出入りも珍しくないはず。
この納戸はまさにそんな用途の場所です。頻繁な出入りを考慮し、建具は設けていません。急いでいて慌ただしいとき、このアーチはなんとも優しくて癒してくれる存在だと思いませんか?
そして、下の写真(【写真2】)も共通したコンセプトで作られた例です。形がアーチなだけでなく、こちらも建具を設けていないことに、私としては強い共感を抱きます。
玄関土間のシュークロークとコート掛けとして計画されていますが、家族の履き物が一堂に並んでいる様子は、愛情に満ちた生活感を感じさせますよね。そう、そこがたとえ収納スペースであっても、しまう物品によっては中が見えてもぜんぜんかまわないのです!
玄関をもっともっと楽しい場所に
上でも少し話しましたが、玄関は出入りの中心となる場所であり、そして家庭と社会とをつなぐターミナルでもあります。間取りを作っていると、なにかと玄関はギリギリの面積で考えてしまいがちなのですが、実はもしかしたら玄関こそ、いちばん魅力的な場所にしたい存在なのかもしれません。
ここでは魅力的で楽しい玄関を紹介いたしましょう。
下の写真(【写真3,4,5】)のお住まいでは玄関がとても広々と取られています。さらに頭上が吹き抜けていて縦にも広々として、明るい光がたくさん入ってきています。かたわらには階段があり、開かれた部屋も面していて、さらに小さなお庭まであるのです。
玄関で暮らしたくなってしまうほど豊かな場所ですね!
さて、下の写真(【写真6,7】)の玄関はとても可愛らしい楽しさに満ちています。
玄関を入ると真っ先に、アーチのついた3つのすてきなニッチが出迎えてくれます。照明が埋め込まれて、ニッチ自体が照明器具のように浮かび上がって光っています。奥行きは決して大きくないですが、わずか10センチくらいの寸法を活用して、玄関という場所にすばらしいキャラクターを与えてくれています!
下の写真(【写真8】)の玄関もすてきな工夫がたくさんです。玄関土間と室内床の高低差を活用して、ベンチを造り付けてあるんですね。
靴を履いたり外出時に家族を待っていたりするのに便利そうですが、何よりも、出入りの場というあわただしいスペースに腰掛けがあってくれるゆとり感というのでしょうか、そんなものが強く感じられて心地が良いのです。
ところでこのベンチの裏側にもまた、すてきな工夫があります。下の写真(【写真9】)がそうです。
実は裏側にも座面の低い腰掛けが造ってあるのです。そして読書したりパソコンが使える小さな机も造り付けてあります。玄関を上がって室内に入り、どんどん奥へと進むと実は玄関の脇にもう一度出るという、楽しい楽しい回遊性にみちた家です!
玄関だけでなくアプローチもすてきに作ろう
玄関をすてきな場所にするならば、ぜひアプローチのあり方もセットで計画してみましょう。
玄関もアプローチも、小さい面積でもすてきに作る工夫はたくさんあります。住まいと街とをつなぐ場所を、ぜひ魅力的に装いましょう。
下の写真(【写真10】)は、上で紹介した「国分寺の住宅」の玄関へのアプローチです。この玄関へのアプローチがまた、たまらなくすてきなのです!
玄関の建具を開け放つと奥の小庭まで見通せて、まるで茶室の露地のような豊かさです。広々とした玄関土間、そしてワクワクするようなアプローチ空間。どちらも現代住宅が忘れかけてしまっている大切な要素のように思えてなりません。
そして、今回最後の紹介となる下の作例(【写真11,12】)は、戸建て住宅ではなく集合住宅のアプローチです。
建物のメインエントランスを道路からグッと奥にとり、長―いアプローチを設けました。そして、ここに緑をたくさん植え込み、足元にはすてきな飛び石状のブロックと玉砂利、そしてグラウンドカバーの植物を敷き込みました。隣地との塀も板塀にするという凝りよう。
「すてきなアプローチを作るのが大好き」という作者の言葉が忘れられません。
2回にわたって住まいの脇役たちをすてきな場所にした例を紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。
実例を探し集めてみると、こうした脇役スペースを大切にして魅力的にデザインした住まいがとてもたくさんあることに驚きました。
限られた面積の中、とかく脇役たちは機械的に計画されてしまいがちです。けれども、これらにほんの少しでもキラリと光るキャラクターを与えてあげるだけで、住まいの魅力はさらに増してくれます。
限られた予算の中でだって実現可能なことはたくさんあります。例えば扉のない収納スペースなんて最たるものですよね。
LDKにとどまらず、住まい全体に小さな工夫をたくさん施してみましょう。きっとすばらしい住まいができあがります。
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