別冊「月刊アーキテクトビルダー」を、もっと多くの方に読んでいただきたい―そんな思いで9月から始まった本紙上での「出張版」。2024年の締めは造作を取り上げました。商品力を高める造作とは何か、大菅力さん(取材・編集担当)と編集部・松本めぐみ(編集デスク)がシチュエーションと家づくりのタイプ別に解説します。
《11月号の出張版はこちら》
Topic1 商品力を高める造作の考え方
大菅 商品力を高める有力な手法として、造作に注力する工務店が増えています。答えは簡単、他の工務店がそうしているから。注文住宅の市場は、工務店のような家を売る側と、家を買う側の情報の非対称性が大きいため、顧客の需要を調査することが軽んじられています。多くの顧客は自分が欲しい家を明確にできていないので、調査が難しい、という理由もあるのですが。
松本 最近の顧客は、SNSで情報を仕入れるので要望が具体的という気もするのですが?
大菅 確かに具体的ですが、みんな内容は同じ。業者のSNSマーケティングをうのみにしているだけです。隣の売れている工務店が造作に注力しだしているということは、SNSの業者のマーケティングで造作に絡む提案の比率が増えているということですね。
もうひとつは、簡単に言うと仕様の差別化が飽和状態に達したので、差別化競争のフェーズが設計の差別化へと移っているということです。「ものの組み合わせ」によるバリエーションが飽和状態になってきたので「ものの使い方」、つまり、同じものを使っていても組み合わせや加工の仕方が違う、というところで勝負する必要がある。それを反映しやすいのが造作ということです。
松本 言い方を変えると、差別化競争は本質的な意味で、オーダーメイドの度合いを競う方向に進んでいるわけですね。
大菅 オーダーメイド提案のなかでは比較的取り入れやすいのが造作ということです。
Topic2 SNSのトレンドと造作の関係
大菅 SNSのトレンドのうち外観やインテリアは見た目のことなので、内容は理解しやすいですね。では間取りトレンドはどんな視点から○と×を決めていますか?
松本 一番はラク家事でしょうか。次がインテリア的な視点。それから横並びキッチンやLDK20畳など、広さの視点でしょうか。
大菅 トレンド絡みで造作が取り入れられているのもまさにその3つです。「ラク家事」、「見た目改善」、「広さ確保」、このあたりがメインになります。
松本 なるほど。言い換えると取り入れるべき造作は、その3つに関連するものとなりますね。とはいえ家づくりの方向性は会社によって異なります。3つのテーマの何を優先して、どのようなものを造作すべきでしょうか。
Topic3 顧客に伝わる造作の条件
大菅 商品力を高めるため、差別化提案のための造作に欠かせない条件は、その価値が顧客に伝わることです。とはいえ、提案内容によっては顧客に価値が伝わりません。提案時と引き渡し後の2つのフェーズに分けて考えるといいでしょう。
松本 より大事なのは提案時のほうですよね。受注できなければ意味がないですから。
大菅 ただし、住んでから高い評価を得るのも、今後の見込み客へのPRとなりますし、高評価の積み重ねで一定の認知を得られると、逆に提案時に伝わりやすい目玉になることもあるので、バランスが大事です。
松本 提案時に伝わりやすい造作とはどのようなものになりますか?
大菅 まずはコスト削減につながるもの。次はラク家事などの暮らしやすさです。その次が見た目・デザインですが、簡単に言うと、絵で伝えやすいものは伝わりやすい。逆に細部の納まりなどは一般の方々に伝わりづらい。その代表格が省スペース化を図るための造作です。そもそも階段裏やスキップフロア、小屋裏などの余剰スペースの活用とセットで提案される造作が多いですよね。空間が想起できないと伝わりにくいです。
松本 引き渡し後に伝わりやすい造作は?
大菅 コスト削減は、工事費を支払った後だとありがたみを感じにくくなります。ラク家事などの暮らしやすさは、上手にやれば日々の生活の実感として評価が高まるので、幅広く取り組むべきでしょう。見た目は引き渡し時がピーク。ただし、提案時に伝わりづらい省スペース化については、日々の生活のなかでスペースの合理性が伝わってくるので、実は住んでから評価が高まります。
Topic4 家づくりタイプ別の取り組むべき造作
大菅 まずはアーキテクトビルダー型工務店の場合を考えてみましょう。坪単価が高いので、小ぶりな家を主体とする会社が目立ちます。
松本 省スペースのための造作が有効ということですね。
大菅 低い・薄い仕切り壁、透ける壁、小上がりなどの段差など、空間を半分だけ仕切るような提案が有効です。関連して階段裏やロフトなどの未利用空間を活用するデスクやベンチも有効ですね。 省スペース化の一環としてのラク家事提案も有効です。小ぶりなパントリー・洗濯室における効率的な収納や作業台、物干し掛けなどを提案すると評価されるのでは。
松本 超高性能系の工務店はどうでしょうか。換気・空調の仕組みと自然素材をウリにしているところが目立ちますよね。
大菅 ここのタイプは住まいの大きさは標準的で、大らかなワンルーム型のプランが多いので、ワンルームを雑然とさせないためのラク家事提案との相性がいいでしょう。 見た目に関する部分では、もともと素材感の強い仕上げ材を多用する傾向があるので、小割材や木タイルによる壁仕上げや天井のルーバー仕上げなどが有効です。ただ、昨今は全体的に調和型の空間が流行りつつあるので、対比は弱めに。
松本 現在の王道である、SNSトレンド対応型の工務店はどうでしょうか?
大菅 このタイプは、見た目で“トレンドが盛り込まれている”とわかる造作提案をたくさん入れましょう。アクセントウォールや折り下げ天井、飾り棚など、隙があれば盛り込む。ポイントは明確な素材感と色を組み合わせること。木部は焦げ茶系か白系の着色塗装が基本。 ラク家事提案も大変重要です。炊事と洗濯関連の収納や設備配置の台、作業台、物干しなどは機能面から徹底的に提案するといいでしょう。
この記事は新建ハウジング12月20日号16面(2024年12月20日発行)に掲載しています。
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