「リノベーションの普及に向けて、ぜひ一緒に取り組みましょう」。会場に集まる工務店各社に向けて、建材・流通会社である立花産業(山形県酒田市)の橘裕之社長が力強く働きかけた事業説明会。この説明会を第一歩として、取引先工務店のリノベーション事業をより具体的に支援しようとするプロジェクトがスタートしました。
新築市場の縮小が進む中、リノベーション事業等新たな一手を講じる工務店が着実に増えている一方、具体策を打てずにいる工務店も多いのが現状です。リノベーション事業への関心が高くても「どのように集客するのかわからない」「リノベーションの店舗を開設する余裕がない」といった声もある中、今回は、共存共栄を図るべく新たな共創プロジェクトを立ち上げた建材・流通会社、立花産業の取り組みを紹介します。
リノベーション事業へのシフトと伴走支援
自社を取り巻く庄内エリアにおいて、大手リフォーム会社が現場見学会や完成見学会を毎月のように開催していることからも、リノベーションの市場があることは明らかです。市場の成長性を見据えた、何らかの具体的な打ち手が必要でした。建材・流通業界には長らく、取引先の課題を解決することを主目的としたコンサルティング営業という概念がありますが、単なる情報提供にとどまらない、建材・流通会社自体がリノベーションのモデルハウスを開設して、モデルハウスを起点に様々なカリキュラムを用意しサポートする点が今回の取り組みの大きな特徴です。
建材・流通会社と工務店の役割分担
今回、建材・流通会社として、同社がどこまでの役割を担うかは検討課題でしたが、モデルハウスへの集客は基本、立花産業が担うこととし、現時点では初回面談の接客を、立花産業・工務店の双方が対応できるよう、準備を進めています。
現場調査以降の営業プロセスは各工務店の役割です。モデルハウスが完成する2025年の春までに、こうした集客・営業フローにおける役割を明確にし、それぞれの領域でどのレベルまで託されているのか、正しく認識し、やり切ることが完成後の成果を左右すると考えています。
モデルハウスをリノベ研修の場として活用
リノベーションモデルハウスは断熱等級7、上部構造評点1.76。長期優良住宅化リフォーム、やまがた省エネ健康住宅の認証取得を見込んでいるほか、模型を展示したり、2階内壁の一部をスケルトンにしたりしながら、体感と性能を同時に学べる施設にする考えです。
今回の取り組みにおいて、このリノベーションモデルハウスは集客装置、営業装置であると同時に、地域の各工務店が現場知識を蓄積するという役割も担います。「施工前の現況診断⇒解体後の見学⇒断熱改修・耐震補強の見学」と各場面で現場に集まり、プロセスの共有を図っています。施工中に研修の機会が持てることは、建材・流通会社と参加工務店、双方にメリットがあると言えるでしょう。
今回の取り組みに対する筆者の着眼点
■半世紀にわたり、業界において必要とされてきた「コンサルティング営業」、さらには何らかの商品や単一のプロジェクトを前提にした「ソリューション営業」とも違う、長期的な視点に立った「伴走型支援」を意識した取り組みである
■限られた過去の類似事例を見る限り、やはり軌道に乗せるためには全体設計と構築がカギになる(モデルハウスを研修の場、見込み客に対する営業装置という位置づけだけで終わらせない)。誰が、いつまでに、どのような役割を担うのかを明確にして、集客段階からうまく機能できれば、リノベーションを通じた顧客接点の拡大により、建て替え案件や不動産案件も獲得できるなど、ビジネスチャンスが広がる
■投資の判断基準として、市場の成長性がリノベーションと新築の大きな違い(大きな潮流とも言える市場成長性が期待される分野、シェアの伸びしろが見込める分野に投資することは選択と集中の基本)
■工務店を取り巻く環境が変化し、一層難しい局面を迎えている中で関係先各社の役割も当然変容しており、サポートの質も高めていく必要がある
■今回の取り組みは、酒田市内に3000戸以上あると言われる空き家問題の解決策の一つでもあり、行政と連携したり、酒田自体の魅力を発信したり、地域への移住やUターンを促すような役割も期待される
橘社長は「新築市場が縮小する中、建材・流通会社として何ができるのか、この問いに対する答えが、リノベーション事業へのシフトに伴走すること、これこそが我々が新たに担うべき役割だという結論にたどりついた」と述べています。
今回のように新たな役割を自ら設定し、次なるステージに向けて踏み出す会社が各地域で増えることが、住宅業界の閉塞打開に向けて大きな一歩になるのではないか。私はそう考えています。
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