ここまで、5回にわたり独自の視点で捉えた【キッチンとアプライアンスの今】を見本市会場(Fiera Milano、Rho)での展示を中心にお伝えしてきました。
今回のVol.6は【番外編】と題した、Milano Design Week を形づくるもう一つの柱「フォーリサローネ」のレポートです。
ミラノ市内のショールームで発信された魅力的なキッチンデザイン、話題のミュージアムでの企画展、さらにミラノの新たな顔となる再開発地区の様子などをお届けします。
Fuori Salone/フォーリサローネ
では、まずはショールーム巡りから・・・
市内は、工場や倉庫の並ぶ「トルトナ地区」、アート関係のショップも多い「ブレラ地区」、ブランドSRが並ぶ「サンバビラ地区」「ドゥリーニ通り」、「大聖堂周辺」などにゾーニングされます。
移動はもっぱらメトロでまさに東奔西走の毎日!
写真上:ミラノ市内を走るメトロの路線図。市内を路線網が張り巡らされている
写真下:Milano Design Weekのバナー。各エリアごとに異なったデザインでショールームやイベント会場前に置かれ、目印となっている
①NEXT125 +Francis Kere《Zona Tortona(トルトナ地区)》
【FIREPLACE】
トルトナスーパースタジオでの展示。建築家ディエベド・フランシス・ケレの設計による木製ドームにNEXT125のキッチンが置かれた。ドームには600本25トンのトウヒの丸太を使用。扉:ブロンズ・ド・ミラーガラス(ブロンズカラー)、TOP:インド産天然石
②Arclinea《Via Durini(ドゥリーニ通り)》
【PROXIMA】
フルステンレスのプロフェッショナルキッチン、ビルトイン機器はサブゼロ。バックには大型のワインセラーとキッチンプランツ栽培用キャビ(Hortus)
【ITALIA】
アントニオチッテリオとコラボした最初のキッチン。ブラックPVD仕上げ。バッの作業用キッチンや収納はModus Systemドアで隠す
【THEA】
ハンドルレスペニンシュラキッチン。扉はハイマット化粧板FENIX(ロッソ・ジャイプール)、ウォール部の扉はオーク。クオーツTOP。カラーが新鮮なミニマルデザイン
③Aster《Centro(大聖堂周辺)》
ラグジュアリーな今年カラーのクオーツトップキッチン。ピンクゴールドの水栓フォスターのシンクもゴールド
④Cesar《Centro(大聖堂周辺)》
【UTOPIAN GARDEN】
写真を拡大し印刷したシートをガラスに貼り付けたプロトタイプキッチン。左壁に垂直収納、オーブン・キャビネットなど自由にレイアウト。バックのガラス扉は縦リブ付き。デザインはGarcia Cumini
【TANGRAM】
ガルシア クミニ スタジオとのコラボ。ガラスTOPと縦リブ堀込を施したラウンド状の無垢材扉、職人技の光るキッチン
⑤Minotti Cucine《Centro(大聖堂周辺)》
【CUCINA TERRA】
石や銅のミニマルキッチンで話題になる個性的なメーカー。光の透過を意識した天然クオーツ素材を使った今年のキッチン。デザインはClaudio Silvestrin
⑥Paola Lenti《ISOLA(イゾラ地区)》
DELGANO (メトロ黄色線)に新SRをオープンしたパオラレンティ。IN⇔OUTの境目のない空間を独特の美しいカラーでまとめた見応え十分なSR。キッチン空間にはリサイクルガラスのハンドメイドタイルをTOPに使ったプロトタイプのキッチンを展示。今後ホテルを併設する予定とのこと
⑦Sie Matic
【S2 NEXT GENERATION】
今年らしいデザインのぺニンシュラキッチン。TOPは天然石に凹凸を付けた3Dサーフェス。プロファイルはマットブラックのアルマイト仕上げ、扉はゴールドブロンズカラーのアルマト。再生が簡単で、さびにも強く優れた素材。エンドにはファーンスピンを採用した回転式トールキャビがレイアウトされている
(左)左端のトールキャビは回転する(FURNSPIN)、(右)プロファイル部を活用したシークレットプレイス
【S2 NEXT GENERATION】
エントランスには天然石(タージマハール)をTOPにゴールド鏡面のシンクをセットしたアイランドキッチン。こちらもコーナーにFURNSPINを使用
⑧Val Cucine《Brera(ブレラ地区)》
メトロ モスコバ駅前のSR。今年は「アーキテクチュアル シナリオ」と題した話題の展示。3つの設計事務所が設計した空間にガブリエレ・チェンタッツォデザインのキッチンをレイアウトした
Val Cucine+Neri & Hu
【ARTEMATICA New LOGICA】
上海・ロンドンを拠点に活躍するデュオ、Neri&Hu が「Home」と「Shelter」の2つの対照的なインスタレーションを手掛けた。写真上:『Shelter』TOP:マットガラス・扉:マットガラス(緑)・ストラクチャードラッカー(グレー)、写真下:『Home』TOP:天然石カルトーゾ・扉:手前/天然石カルトーゾ・奥/突板ニレ材
Val Cucine + i29
【RICICLANTICA OUT LNE 】
ワークトップ&扉:マットガラス(ホワイト、ネイビー共)
【LOGICA CELATA】
ワークトップ&扉:鏡面ガラス
【GENIUS LOCI】
ワークトップ:ガラス・フロント化粧材:無垢材(ニレ材)・扉:突板(ニレ材)
【RICICLANTICA OUT LNE(写真:上) 】【LOGICA CELATA(写真:中)】【GENIUS LOCI(写真:下)】の3デザインは全てガラスのTOPを搭載、ガラスの可能性を追求した
Val Cucine + ARRCC
【FORMA MENTIS】
ワークトップ&扉:メラミン
ラグジュアリーなリビング空間をキッチンとドッキング。インテリア性を重視した
⑨Boffi 《Brera(ブレラ地区)》
【NOVANTA】
90周年のアニバーサリーイヤーを迎えたBoffi。1986年からピエロ・リッソーニがアートディレクターに就任、多くのデザイナーを起用してモダンでイノベイティブなキッチンを世に出してきた。今年は5人のデザイナーが伝統を意識したキッチンを発表した。写真はエントランスを飾るP.リッソーニデザインの新作
Boffi SR外観
【XO】
エリサ・オッシーノが、1972年の名作キッチンXIRA(キシラ)にインスパイアされて発表した新作。TOP:ブレッチャ・インペリアーレ、スナックテーブルはElm(ニレ)の無垢材
【XIRA】1972年(参考)
⑩Time & Style 《Brera(ブレラ地区)》
Boffi SRの向かいに 2022年オープンしたTime & Style SR。今年、さらに拡張され、3つ目の棟が完成した。中庭を介して3つの棟が繋がる回遊型のSRとなっている
写真(下)のキッチンはSRの備品?グループのBoffiのキッチン?
⑪The Cut Milano 《Brera(ブレラ地区)》
ミラノの小さなキッチンSR。天然石のコーナーR・縦リブ加工は熟練の職人技による手作業
⑫Bulthaup《Brera(ブレラ地区)》
【B3シリーズ】
2004年、エポックメーキングなキッチンとして登場した壁ハンギングシステムのキッチン
オーク無垢材のアイランドキッチン。ベースはステンレス。ハンギング部には調理器具やフライパン、脚部にダストBOXが組み込まれている
食材やキッチンハーブが所狭しと置かれたアイランドキッチン。単なるキッチンを創るのではなく、キッチンを核に食を介して人々が集まり、コミュニケーションの我が広がるキッチン空間づくりを提案するブルトハウプ。「There is no Kitchen」のキャッチフレーズを感じるあたたかな場所になっていた
⑬GAGGENAU《VILLA NECCHI(ヴィラ ネッキ)》
デザインと機能を追求したモノづくり、ハイエンドキッチンアプライアンスのガゲナウ。2022年から本会場を離れ市内で展示。今年も1938年に建てられた邸宅ヴィラネッキで「The Elevation of Gravity(重力の仰角)」と銘打って新商品を発表した
【Essensial IH】12mm厚のデクトンの下に設置された誘導コンロ
【VARIO 400 SERIES】
⑭Electrolux《PORTA NOVA(ポルタノーバ)》
スエーデンに本社を置く100年を超す歴史を持つグローバルカンパニー。環境保全に力を入れた商品開発に注力、世界初のノンフロン冷蔵庫を出したことでも知られている。今年はPORTANOVAの緑地の一角に北欧風住宅を再現し、サスティナビリティと環境保全配慮の家電を展示した。
【New EcoLine】
DWや・IH・洗濯機など一般家庭の暮らしにある家電製品が置かれた室内を再現
マイクロプラスティックをフィルターで除去
以上、ミラノ市内でのショールームを駆け足で回り、今年らしいデザインや素材、アピールポイントなどにフォーカスしてご紹介しました。
Milano city/ミラノ市内
見本市の終了後は時間を取って、ミラノ市内の散策です。話題の再開発地区でミラノの新しい鼓動を感じてみたり、企画展を開催中のデザイン関連のミュージアムを訪れました。
(Redevelopment area)
(Modern Design Museum)
ADI DESIGN MUSIUM
2021年5月末に開館。1954年にジオ・ポンティによって創設されたコンパッソドーロ賞のコレクションを展示するために設立された話題のミュージアム。。元は馬車トラムの駅・その後1930年代には配電所として使われていた。
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常設展示、1954年から今日までのコレクション |
カフェ、アルコールの数の多さにびっくり! |
発電所の面影が残る展示室
【Origin at Simplicity 20 Visions of Japanese Design】
1960年代から今日までの日本のものづくりとクラフトマンシップを紹介
TRIENNALE
【Cuore Centro Studi Archivi Recerca】
こちらも話題のサローネ開催前の2月にオープンしたデザインセンター。1Fエントランス左手の明るくモダンな400㎡ほどのスペースにはデザイン関連の30万点以上の本、カタログ、写真、図面までがアーカイブされている
【Universo Satellite Salone del Mobile】
サローネサテリテ25周年記念企画展。1998年に創設された35歳以下の若手デザイナーの登竜門ともいわれる「サローネサテリテ」。本会場とは別に25年の歩みを一堂に展示した。現在第一線で活躍しているデザイナーの作品も多数展示されていた
Redevelopment Area【CITYLIFE】
旧フィエラの跡地に展開された再開発地区、広大な緑地の中央に3つのオフィスタワー(Tre Torre)がそびえ立つ。ショッピングモールが地下部分に広がり、住宅は緑地を囲むように建設されている。
タワー左:リベスキンドタワー(カーブ)・設計:D.リベスキンド、タワー中央:ジェネラリタワー(ツイスト)・設計:ザッハ・ハディッド、タワー右:アリアンツタワー(ストレート)・設計:磯崎新。左下の写真はMiCoコンベンションセンター
ツイストタワー地下にはショッピングモールが広がる。写真左下はマンション群
Redevelopment Area【PORTA NOVA】
LEED®とWELL®の両方のコミュニティ持続可能性認証を取得した世界初の地区。この地区の象徴ヴォスコ・ヴェルティカーレ(垂直の森)やユニクレジットタワ、商業施設、図書館も点在、草花の咲きみだれる公園は市民の憩いの場。
*LEED:人や環境について考慮した建物(グリーンビルディング)を評価する国際認証制度
*WELL:人がより健やかで快適に働くことができる空間を評価する国際認証制度
7月に始まった《EuroCucina/FTK トレンドレポート》、当初の予定を大幅に超えたボリュームでの連載となりました。半年間のご購読ありがとうございました。EuroCucina/FTKの次回開催は2026年です。ミラノ禍を乗り越え新たなステップを踏み出した2024年の次の展開を楽しみに連載を終了します。
と書きつつ、この後さらに少しだけ、《おまけの写真》を掲載させていただきます。
1997年に初めてミラノ国際見本市を視察してから今日まで、ヨーロッパのキッチンや家具、ファブリックスの見本市に毎年通うようになりました。
1999年からはプレスとして、会場はもちろんのこと開催地のショール―ムやミュージアムにも脚を運び取材を重ね、レポートの執筆、トレンドセミナーなどで最先端のデザインを紹介してきました。撮りためてきた数多くの写真の中から、各開催年の話題をさらったキッチン画像をセレクトしてみました。
四半世紀のキッチンデザインの変遷をお楽しみいただければ幸いです。
有限会社アルファ・スパッチオ代表取締役 奧村公子
サローネ・アーカイブ1997→2019
Amendola Fiera (旧会場)《1997・1999》
EuroCucina《1997》
Val cucine
Strato
EuroCucina《1999》
新設会場14.15.16号館の上階で42000㎡の展示面積、97年の2倍に
SHELLEY:Schiffini
EuroCucina《2002》
ACROPOLIS:Snaidero
ACROPOLIS : Snaidero
imm cuisinale《2003》
Allmilmo
NEW302:Sie Matic
EuroCucina《2004》
PLACE:Dada
①Pedini ②b3 : Bulthaup
imm cuisinale《2005》
Leicht
Allmilmo
Mobalpa
EuroCucina《2006》
Fiera Milano,Rhoでの初めてのEuroCucina
VENUS : Snaidero
TERRA : Minotti
EuroCucina《2008》
THE KITCHEN : Schiffini
P7340:Poggenpohl
EuroCucina《2010》
CARRE:Ernestmeda
CULT : Rational
Arclinea
Living Kitchen《2011》
imm cuisinaleが名称をLiving Kitchenと変え再登場
DUALITY : Warendolf
CLASSIC : Uno Form
EuroCucina《2012》
Alps INOX
①Bora ②Minacciore
Living Kitchen《2013》
NEXT125
Ballerina Küchen
EuroCucina《2014》
①Diesel ②Minacciore ③P.UrquioraxBoffi ④⑤NendoxScavolini
FLUX SWING : Scavolini
Living Kitchen《2015》
FLY BRIDGE:Zeyko
①Ernestmeda ②Nobillia
EuroCucina《2016》
①Ealam ②Marchi Cucine ③SieMatic ④⑤Arclinea
imm Living Kitchen《2017》
①Leight ②LES COULEURS : Le Corbusier ③TEAM 7 ④Warendolf ⑤Häcker
EuroCucina《2018》
①RATIO : DADA/Molteni ②K-SYSTEM : Ernestmeda ③OASI : Aran cucine ④Sanwa Company ⑤Abimis
Living Kitchen《2019》
①②Nolte ③⑤Ballerina Küchen(テーブルに置かれているのは食材を運ぶドローン) ④Diesel+iros
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