土という古き良き建材のルネッサンスがドイツで起こっていることを、9月30日号の本連載で書いたが、それは住宅建設だけではない。今回は、大型のオフィス建築での土の活用の事例を紹介したい。ドイツのビオ(有機認証)食品スーパーチェーン大手Alnatura(アルナトゥーラ)の新オフィス「Alnatura Campus(アルナトゥーラ・キャンパス)」だ。
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フランクフルトから南に約30km下ったところにあるダルムシュタット市の郊外、森が隣接する軍の演習場跡地に2019年に建てられたこの建物は、2020年、GDNB(ドイツ持続可能建築協会)のプラチナ賞(最優秀賞)をオフィス建築部門で受賞した。
3階建、延べ床面積1万3500㎡のこの建物には、500人が働くオフィス、会議セミナー室、ならびにビジター用のビオベジタブルのレストランとビオスーパーが入っている。約5万㎡の敷地は、森の幼稚園、ビオ菜園、駐車スペースによって構成されている。
この建物の目玉は、たたき土の壁である。高さ12m、幅4.5m、厚さ69cmの土壁パネル16枚が建物を支えている。土壁のなかには、厚さ17cmのリサイクル発泡ガラス(砂利状)の断熱材が詰め込まれていて、蓄熱・断熱ともにバランスの取れた性能を発揮している(土壁のU値は0.35W/㎡K)。
現在、ヨーロッパでもっとも大きな土壁である。外壁の表面は無垢のままだ。天気による侵食を防ぐため、粘土とトラス石灰からなる侵食ブレーキ層が、縦30cmごとに、水平方向に組み入れられている。また、内壁の摩耗を防ぐために、カゼイン(牛乳のタンパク質成分)塗装がされている。土の呼吸(調湿)を妨げない自然素材だ。
一般的な高層建築では、壁材としてはコンクリートが使用されるが、それが地域で産出された土で置き換えられたことによって、グレーエネルギーはゼロに近くなる(土はその製造・加工にわずかなエネルギーしか必要としない)。また、土は容易にリサイクル・リユースできる。しかし基礎はやはりコンクリートだ。屋根の梁と断熱材は木製である。
現代の省エネ建築では、熱交換式の機械換気が必須のように取り付けられているが、この建物では・・
この記事は新建ハウジング11月30日号6面(2024年11月30日発行)に掲載しています。
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