けんちくや前長(栃木県那須烏山市)社長の前澤昌弘さんは2022年、HEAT20・G3相当の自邸兼モデルハウスを建築した。時代の流れから変化を迫られたため、木を大事にする伝統と変化(高性能)を両立する方法を模索し、今後の自社のあり方も見据えながら形にしてきた。15年に栃木県林業センター(栃木県宇都宮市)と共同開発した無垢材の耐力壁は、自邸にも採用。木質系断熱材と合わせて、天井と屋根にも組み込んだ。今後は外販も予定している。【編集部 佐野元基】
同社の商圏である栃木県は、豊かな森林資源に囲まれている。同社は、“大工が手刻みでつくる木の家”を特徴に、地域の資源を有効活用することで心地よい住まいを創出してきた。無垢の木を生かす職人の技こそが同社らしさであり、前澤さんが事業を継いだ後も踏襲し、大事にし続けきたこだわりだ。木にこだわる理由はシンプルで「周りに木が余るほどあり、そこに大工がいるなら使わない理由はない」。
同社にとって転機になったのは2019年。近年、日本中で続く異常気象の中でも、前澤さんにとって特に頭の痛い問題が夏の猛暑。「お客様に快適な住宅を提供できなくなるのでは、という危機感を抱いた。断熱・気密性を向上することでさらに快適な暮らしを提供できるなら、新しいことに挑戦したい気持ちだった」と当時を振り返る。屋外作業が多い大工にとっても猛暑は逆風だ。
また、それまでは全て真壁工法でつくってきたが「断熱材やサッシの厚みが合わず、対応できなくなる案件も増えてきた」時期でもあった。前澤さんは、今後の会社の行く末も見据えて、実験的にHEAT20・G3相当の高性能住宅を、自邸として建てることを決心する。
G3相当の実験住宅を竣工 “できること”を提案していくために
前澤さんの自邸兼モデルハウス「さくら市モデルハウス」。木をあらわしとした空間や家電を組み込んだ造作棚、大開口の木製窓など、自社のこだわりと変化を生かして空間を創出した |
最初に参考にしたのはドイツのパッシブハウスだった。パッシブハウス・ジャパンにも加入して情報を収集していたが、自身が実現したい家の形とのズレを感じていた。「高性能を実現するための手法や断熱材の種類なども教えてもらい施工事例も見学したが、腑に落ちなかった」そうだ。
そんな中、もるくす建築社(秋田県美郷町)社長の佐藤欣裕さんと出会い、「佐戸の家」(佐藤さんの自宅)を見学することになる・・・
この記事は新建ハウジング11月30日号3面(2024年11月30日発行)に掲載しています。
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