新規事業としてリノベーションの機運が高まっているのは周知のとおりです。とは言え、リノベーションの中でも事業領域は細分化されており、持ち家リノベーション、中古リノベーション、買取再販などが挙げられます。さらには戸建てとマンション、性能向上と表層リフォームといった区分もあります。そんな中、今回は近年注目が集まる買取再販の動向から、性能向上との両立に至るまで取り上げたいと思います。
1強のカチタス
中古戸建て住宅の買取再販の領域で代表的なプレイヤーは言うまでもなく、販売実績が1強状態のカチタスです。地方エリアを中心に、130を超える店舗網で、安価な家賃の賃貸アパートに住みながらも持ち家志向のある低~中所得世帯をターゲットに、リフォームを施した買取再販事業で成長。新築住宅の代替という存在感を増しながら、直近5年間の売上も堅調に推移しています。
仕入れ、企画、設計だけでなく、家を売ることに比重を置いたCMをはじめ、高い販売力を保有している点も特徴です(同社出身者からは担当者に対して早期販売への報奨金が支給されたこともあったという話も聞いており、販売に対する意識の高さの表れだと言えるでしょう)。
従来から、候補物件の現況調査を経て買い取りに至るケースは約1割と厳選していたようですが、特に近年は中古住宅のリスクからか現調の精度向上だけでなく工事費を確保するため、物件仕入れ交渉はより一層シビアになってきている印象です。同時に、建売住宅の価格を常にチェックしながら工事原価のコストダウンを図っているほか、当然ながら大量発注による資材仕入力も強みの一つです。
公式ホームページの販売物件一覧を見る限り、ここ3年で販売平均価格が200万円ほど上がってきている印象ですが、依然として高い競争力を有していることは言うまでもありません。法改正の影響はプラス面、マイナス面が考えられますが今後も相続が絡んだ空き家の増加と物価高・先高感という経済環境の中、地方市場を中心に大きな影響を与えていくと考えられます。
工務店力を活かした性能向上リノベ再販事業
ここで思い出されるのが2013年当時、戸建て住宅の性能向上リノベ再販事業にいち早く参入したR社の例です。2016年にも戸建て再販の新サービスが開始されましたが、その後は工事の見通しがつきやすいマンションを主軸にするという方向性になっている印象です。構造が絡み、収益確保に誤差が出やすい戸建て住宅の難しさや性能向上と中古購入者との整合性が要因かもしれませんが、マンションに比重を置いたのは強みとの適合や平準化を重視する会社の方針も大きかったのではないか、と私は見ています。
先進事例としての2社の性能向上リノベ再販を比較する
次に、性能向上と販売価格のバランスが大きな課題となる中で先導的な取り組みをされている2社を見ていきたいと思います。2例という限られた事例ではありますが、共通点として、エリアを限定していることが目を引きます。これは性能向上と中古購入者の志向との整合性が課題になってくる中、その分、エリアの価値の比重がより一層重要になっていると推察します。
その他、スキームや粗利率等収益モデルに違いがありますが、筆者が見聞きする限り、想定粗利額はほぼ同額になっている点も興味深いです。
性能向上リノベ再販に取り組む2社の比較
2社とも、住環境に対するブレない姿勢、住み継がれる家にするために品質には妥協しないという信念を感じます。リノベーションの可能性を広げる、大変意義のある取り組みであり、エンドユーザーの性能向上の認知度アップ、中古住宅の流通量の増加といったプラス材料もある中、今後の動向を応援しながら注視していきたいと思います。
筆者の着眼点
■4号特例の縮小は、確認申請による購入から販売までのリードタイムの拡大が懸念されるが、一定期間の混乱期を経て、長い目で見ると良質な中古住宅の流通という利点が期待される
■表層系と性能向上系に大きく分けられるという見方もある中、否定し合うのではなく重なる部分を見出したり、取り入れ合ったりすることに発展の可能性がある
■県単位、市単位の判断ではなく、町、場合によっては丁目単位で優先順位をつけながら条件が揃うエリアに限定する(アクセス、移住ニーズ、子育て支援など、自治体の取り組み含め総合的に判断)
■仕入れに関しては自社が保有するOB顧客からJA系、税理士経由に至るまで幅広く可能性を探ること
■ローコストビルダーが在庫調整したり、団塊世代から団塊ジュニア世代への実家相続(相続はするが、住まないケース)という大きな流れがあったりする中で仕入れ面でのプラス材料もある
■施主との打ち合わせを重ねる持ち家リノベーションに比べて生産性向上が見込める点は経営上、大きな魅力
■工期短縮など工事費のコストダウンは一部の先進事例に限られブラックボックスとも言える状況であり、今後業界内でのノウハウ共有が期待される
■売れる物件であることの基準をクリアにする(建物に関しては性能だけでなく、デザイン、間取り、広さ含めルール化)
■一定の顧客像を設定しつつ、幅広い販売チャネルも同時に構築(筆者のクライアントでは移住ニーズだけでなく近隣ポスティングで売却が決まるケース、住み替え客が購入するケースもある)
■顧客ロイヤリティが高いOB顧客は仕入れだけでなく、販売においても見込み客になり得るので、多ければ多いほど有利
■地域において高い次元でブランド力を有している工務店なら、自社のファンでありながら新築は予算的に厳しいという層も見込み客にできる点は見逃せない大きな強み。したがって、事業部間で案件共有するなど、融合を図ることが肝要(買取再販に限らず、こうした自社特有のアドバンテージを活かせるかどうかは新規事業の結果に大きく左右する)
筆者クライアントの取り組みの現状
今回のテーマにおいて、筆者クライアントでは売却型モデルハウスが性能向上リノベ再販に通じる部分がありますが、あくまでも持ち家からのリノベーション受注に比重を置くかたちで展開しています(物件購入に対する主な判断基準は売却の観点に加えて、筆者の場合はリノベーション受注を見据えた集客・営業の観点も含め、地域性によって比重を調整しながら判断している)。したがって、売却益を確保できる例は数社ありますが、粗利率は10%ほどで多くは減価償却も含め原価ベースで販売しているのが現状である点、最後に付記しておきます。
以上、性能向上リノベ再販というテーマは次なるフェーズに発展できるかどうかという段階で、工務店リノベの未来図に向けて、様々な「知」と「知」が混ざり合いながら進化していくことが期待されます。
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