別冊「月刊アーキテクトビルダー」を、もっと多くの方に読んでいただきたい―そんな思いで9月から始まった本紙上での「出張版」。壁紙とラク家事デザイン、2本立ての11月号でしたが、出張版ではラク家事デザインのうち「キッチン」について、大菅力さん(取材・編集担当)&松本めぐみ(編集デスク)が語ります!
《10月号の出張版はこちら》
Topic1 床材の選び方
大菅 キッチンの仕上げ材(床や壁、天井)を選ぶときは、施主の好みもはっきりしている床材から始めるのが合理的です。ワンルームの場合は床もダイニングなどと同じ材料でつながるので、自然とフローリングが多くなります。問題は耐水性ですね。
松本 キッチンは調理の際に水や油がはねるので、フローリングだと傷みやすそうで心配です。
大菅 LDK全体をフローリングで統一する場合は、キッチンだけ清掃性の高い塗料に仕様を変更します。ウレタン樹脂系のつや消しタイプや、ガラス系の塗料がいいでしょう。どちらも仕上がりはマットな感じで、自然系塗料などで仕上げたダイニングの床との光沢の差もわずかです。
松本 どんな位置で塗装の仕様を変えたらいいのでしょうか?
大菅 キッチンとダイニングの境目なら、調理ユニットやバックガードのラインに合わせるといいでしょう。塗装済みのフローリングを使う場合、その境目にそろえて張り始めるときれいに仕上がります。タイルや石に切り換える場合は、取り合う場所によって考え方が変わります。オープンな間取りで取り合う場所が見えているときは、違う素材でも同系色でまとめるのがベター。取り合う位置が見えないときは、色がはっきりと違っても問題になりにくいです。閉鎖型のプランなら建具などの部屋の境目で切り換えます。
Topic2 壁や天井の仕上げ材の選び方
松本 壁や天井の仕上げ材を選定する際、最初に考えるべきは?
大菅 素材の前に配色です。住宅なら、壁と天井は白やライトグレーなど、明るい色がベースになることが多いでしょう。天井を壁より少し暗めの色にすると、適度にメリハリがつきます。確実に雰囲気がよくなります。 壁や天井には、コストの問題から壁紙を用いることが多いかもしれませんが、できれば塗装で仕上げたいところです。塗装の利点は微妙な調色ができること。さまざまな色の組み合わせを試すことができます。キッチンでインテリアに差をつけようと考えるなら塗装で仕上げましょう。
松本 気になるのは清掃性です。特にコンロやシンク周りは、水はねや油はねが多いので…。
大菅 水や油がはねやすい部分には、キッチンパネルやタイルなどを貼ることになりますね。基本は周りの壁に色をなじませましょう。シンクやコンロ前以外の壁は白系が多いので、キッチンパネルやタイルも白系を選ぶことが多くなります。 施主の好みによっては、アクセントになるような色を用いることもあり得ます。特に閉鎖型のキッチンや、コンロやシンクがダイニングから見えにくい場合はカラフルなタイルも採用しやすいです。逆にオープンキッチンで、コンロやシンクがダイニングから見える場合、おかしな配色にならないように設計者がアドバイスしたほうがいいですね。
松本 ステンレスを壁に用いる場合もありますよね。
大菅 この場合、ステンレスの機能性や無機的な表情が好きな施主であることが多く、調理ユニットや収納などの天板もステンレスを使うことがほとんどです。周囲の壁ではなく、調理ユニットや収納のほうにコンロやシンク前の壁仕上げを合わせてまとめていくといいでしょう。
Topic3 面材のまとめ方
松本 調理ユニットや背面収納の面材の影響も大きいですよね。
大菅 調理ユニットや背面収納は家具の一種ですから、造作だと木質系が多くなりますね。木質系なら床材に合わせていくのが基本です。明るい針葉樹系のフローリングなら面材も明るい色の樹種が合わせやすいでしょう。床材が濃い茶色だったら面材も焦茶や赤茶の相性がいい。色の濃さは塗装でもコントロールできます。突板に塗装がベストですが予算がなければ既製の合板を用いることになります。無難なのはシナベニヤ。木目や色がそろいやすく、塗装した仕上がりもよいので便利です。
松本 施主の要望で、背面収納など部分的に既製品を使う場合は?オレフィンシートなどプリント仕上げの製品が大半ですが…。
大菅 オレフィンシートなど木目柄なら、造作部の面材に、塗装した突板を用いてシートに合わせましょう。シートによく似た木目の突板を選び、色もシートに似せて調色すると極めて自然に仕上がります。光沢のあるメラミンなどの場合は、壁や天井との調和を考えて色を決めることになるので、白系の色になることが多いでしょうね。
松本 面材以外に収納の注意点は?
大菅 引き出しの内部です。一般的には白いポリ合板で仕上げますが、落ち着いた空間では意外と目立つので、グレーなどの色で塗装するのがおすすめ。電子レンジなどを入れる場合は、同じくグレーのキッチンパネルを使いましょう。
Topic4 システムキッチンを空間になじませる
大菅 システムキッチンを入れる際によく採用されるのがバックガード(三方を造作で囲んでしまう)ですね。本体が見えない、ダイニングの意匠に合わせた仕上げが可能になります。
松本 対面キッチンでよく用いられている手法ですね。
大菅 ダイニング側に収納を設けなければ、扉は不要で単なる前板になるので無垢の板を用いることもできますし、床材をそのまま折り上げるようにして前板にする、といった表現も可能になります。
松本 バックガードに関して他にポイントはありますか?
大菅 まずは天板の処理ですね。単なる手元隠しなら、床からも高い位置なのでダイニングからも見えず、素材も自由です。しかし、ここをカウンターとして使う場合、木材だと食器による輪染みができたり傷ついたりします。それが嫌ならステンレスやメラミン、石材を使いましょう。
ポイントは小口の表現です。ステンレスなら、厚さ数㎜の無垢のステンレス材を貼ると、小口のラインがバックガードに合わせて通るのでおすすめです。メラミン化粧板も、仕上げ面と同じ材料を用いたコア材を小口に貼ると、黒っぽい小口が見えずきれいに仕上がります。
松本 側板の見せ方は?
大菅 側面に15㎜厚程度のシナベニヤなどを直接貼り、さらにその上に薄い突板合板を貼ると一体感が強まり、かつ好みの樹種で仕上げられます。 意匠と機能は不可分です。ラク家事を追求する施主に対しても、意匠について考えてもらいましょう。
この記事は新建ハウジング11月20日号16面(2024年11月20日発行)に掲載しています。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。