ここ数年、「実家の相続・贈与」「どうする実家の大問題」といったタイトルのビジネス雑誌や書籍を見かける機会が一気に増えてきました。「実家」がクローズアップされ、空き家が社会問題化する中、それだけ工務店の役割も増していると日々実感しています。今回は、工務店のリノベーション事業において社会的な意義とビジネス、双方の観点から重要なテーマになると考えている「実家リノベーション」について探っていきたいと思います。
人口ボリュームから見る「実家リノベーション」のポテンシャル
ここ数年で団塊世代が相続や贈与を行う時期を迎えます。家を相続する、または贈与されるのが団塊ジュニアと言われる子世代です。
国土交通省(令和4年度)によると、建て替え(注文住宅)の調査データではありますが土地を取得したきっかけの第1位は「相続を受けた(39.3%)」となっており、年々増加傾向にあります。
関連して、解体ポータルサイトを運営するクラッソーネによる調査では、空き家所有者の3割強が「居住者の死亡、または相続したから」空き家を取得したという結果になっており、こちらもやはり回を追うごとに伸びているようです。さらに「自分や家族が居住したい」を含め利活用を望む回答も多く、こうした莫大な相続マーケットにおいて、選択肢の一つとしてリノベーションがいかに浸透・認知されるかが、今後の大きなカギになると見ています。
「実家リノベーション」の顧客像は一次取得者?二次取得者?
かつて、リノベーション事業を展開するにあたり「リノベーションのターゲットは一次取得者か二次取得者か」で議論になる場面が多々ありました。「実家リノベーション」のコアターゲットを設定するなら、親世帯は二次取得者であり、多くの子世帯は一次取得層ですので、答えは「両方」ということになります。
大雑把に見ても、こうした2つの顧客像がある以上「これをやっておけば大丈夫」というような媒体はなく、柔軟なアプローチが必要だと考えています。私が効果測定できる範囲内での見解ですが、多くの地方エリアにおいて現時点では親世帯には紙媒体、子世帯にはSNSなどのデジタル媒体で、どちらの層も必ず経由するWEBサイトが重要な位置づけになっていると常々感じています。
また、子世帯には地元へのUターンを見据えたアプローチも選択肢の一つです。実際に首都圏在住者も視野に入れて、「Uターン+実家リノベーション」を訴求している例も存在します。
自社が提案する「実家リノベーション」の案件をいかに獲得するか
私が受ける相談や質問の印象としては、工務店側が体制整備や性能面等の強化を行っても、その後、エンドユーザーとの共通認識や、リノベーションに対する需要創出まで意識が行き届かないというケースが多いようです。
ぜひ、自社が考えるリノベーションの定義、リノベーションらしさ、リノベーションの特徴をWEBサイトやモデルハウス等店舗を通じて地域に伝えていただきたいと思います。新築のハードルが上がったり、高齢化が進んだりする中、二世帯化リノベーションや減築リノベーションなどのカテゴリーまで落とし込んで、未認知の顧客に対してリノベコンテンツを発信し、地域で需要創出するプロセスまでをしっかり押さえる必要があると考えています。
公民4者による連携!地域に対してリノベーションの普及・浸透に取り組む工務店
「実家を空き家にさせない」「地元金沢区の空き家増加に歯止めをかけたい」という問題意識を強く持ち、事業展開を図る工務店がアートテラスホーム(神奈川県横浜市)です。「持続可能な地域社会の実現に向けて、リノベーションを普及・浸透させたい。大工技術者の育成と継承にも寄与したい」。現役大工でもある石原社長はこうおっしゃいます。
プロジェクトの第一弾として、横浜市金沢区で築35年の戸建住宅を購入し、フルリノベーションしたモデルハウス「片吹丘陵の家」を開設。実家リノベーションと買取再販、両方を見据えたこの取り組みの特徴は、地域に密着する工務店が主導しながら、横浜市(よこはま健康・省エネ住宅推進コンソーシアム)、金沢区(区制推進課)、YKK APが連携しながら継続して見学会を開催するなど、地域に向けてリノベーション需要の創出を図っている点です。横浜市の中でも特に金沢区は莫大な空き家予備軍をかかえているという難題に直面しており、公民による共創というかたちに至ったのは双方の地域活性という問題意識が一致したからであることは言うまでもありません。
行政とビジネス、それぞれの立ち位置に異なる部分があるからこそ、思いや目的が重なった時の可能性の広がりが期待されます。
さらにプロジェクトの第二弾として、金沢区内で天然木をふんだんに使用したマンションリノベーションのモデルルームが完成しました。これまで、リノベーションをテーマにした公民連携は行政主導、または外部エージェントなど一部の先駆的企業に限られていたように思いますが、地域密着型の工務店が主導する上記のような取り組みが各地域で必要とされているのではないでしょうか。
工務店が今、そしてこれからの地域課題をどうとらえて、リノベーションを通じていかに解決していくのか、私もまた違う視点と立ち位置から支援していきます。
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