若手設計士のみなさんこんにちは。
さて、今回は内と外とのつながりをもう少し深掘りしてみたいと思います。
前回紹介した作例の多くは敷地面積に恵まれた住まいでした。が、現実には街中で敷地面積になかなか恵まれない、狭小の条件下での住宅計画になることも多々あると思います。
そこで今回は、より小さめな敷地の小さな住まいに着目してみました。
敷地が小さいからといって外部空間づくりに対して消極的になってしまうのはもったいない、そう思えてならないからです。
敷地が狭い、眺望も期待できない。ならばこそ、外部空間はむしろ大切な存在なのではないか。住まいを密室の箱にしてしまわずに少しでも外に開いて、陽の光や小さな景色を見せてあげたい、空や雨風などの自然を感じさせてあげたい。
ほんの小さなスペースでも作り方や見せ方を少し工夫すれば、きっと見違えるほどすてきな場所になってくれるはずです。今回はそんな試みをした成功例を紹介していきたいと思います。
空中に浮かんだ外
敷地が小さくても、敷地ギリギリに建て込まねばならなくても、頭上の空だけは必ず存在してくれます。
外部空間は地面に設けるばかりが方法ではありません。2階、3階の高さ、あるいは屋根の上にだって外をつくることはできます。
下の写真の住まいは限られた面積の敷地に建っています。地面に庭を設けることが困難なため、空中に小さな庭を設けました。そしてすべての部屋がその庭に面するように計画されています。左側の写真の正面に見えているサーモンピンクの部屋がそうです。ここは空中に浮かんだ小さな庭なのです!
下の写真のように、居間だけでなくダイニングルームや寝室もこの庭に面して、光や空を採り入れています。
そして実際に庭に出てみたのが下の写真です。実はけっこう小さなお庭なんですね。その小ささは右側の見上げ写真でよくわかります。
この「千川の住宅」の庭からは実に多くを学ぶことができます。
まず、できるだけ多くの部屋が面するように配置すること。そして何よりも、お庭自体は決して広くなくても十分魅力的になれるということです。狭小住宅の難しさに悩んでいるみなさんにとって、この作品は大変な勇気づけになってくれますね!
縁側だって空中に浮かびたい!
空中に浮かんだすてきな外部空間をもう一つ紹介しましょう。
下の住まいも限られた面積の敷地に建っています。が、見るからに景色の良さそうな住まいですよね。この利を生かさない手はありません。
そこで作者が考え出したのが、2階に縁側を設けてしまうというアイデア。まさに「空中縁側」です。
この縁側を室内から見たのが下の写真です。上の外観写真の2階部分の開口の奥は縁側になっているのです!
ちょうど腰掛けられるくらいの高さに持ち上げられた、開放感あふれる縁側です。広々と見えますが実際の奥行き寸法は約1.8メートルと、意外にコンパクトであることがわかります。
とにかく、写真でおわかりのように景色がすばらしい。そして家の中のいちばん明るい場所にあって、床が高くなっているから存在感がいっそう増しています。こうしたさまざまな演出を重ねることで、小さな外部でも大きな存在感を持つことができるのです。
室内に小さな外を「挿入」してみる
下の写真の住まいでは、室内にまるで食い込むようにして小さなお庭が設けられています。ダイニングキッチンとリビングでお庭を囲み、内外一体の場所づくりをしています。このように外を中に「挿入」させますと、部屋はグッと広々と見えてくれるのです。
スケール感を操作して小さな外を広々と見せよう
下の写真は前回紹介した「うすずみの家」のお庭です。
実は私、個人的にこのお庭が好きで好きでたまらないのです。なぜかと言いますと、とっても小さなお庭なのにぜんぜんそう見えないからです。
このお庭の各部の寸法を見ますと、とても納得がいきます。まず奥行き。室内から正面の板塀までわずか約2.8メートルです。六畳間の短辺くらいなんですね。けれども実際よりもうんと広々と感じさせてくれる秘訣は、一番に正面の板塀にあるのではないでしょうか。
板塀の高さは外の床から1.2メートル。外の床自体は室内床より30センチ高いので、室内から見た板塀の高さは1.5メートルとなります。もしこれが1.8メートルとか2メートルの高さだったら、逆に閉塞感が出て狭苦しく感じていたかもしれません。
さらにこの板塀は目透かしで作られています。完全にパネル状に作ってしまうよりうんと圧迫感が少なく、透明感すら湛えています。もちろん風も抜けてくれます!そして板塀にしつらえられたベンチ。ウッドデッキからの高さは35センチ、そして奥行きも35センチです。一般のベンチ座面よりも低め、奥行き浅めにして、見かけ上のスケール感を少しでも落としています。
このような細かいスケールの操作を行うことで、実際よりもうんと広々と開放的なお庭ができあがりました。狭小な敷地でなんとか豊かな外部空間を作りたい。そんなときに数多くを教えてくれるすばらしい作例です!
外に小さな小さな景色を作ろう
下の住まいでは、いちばん奥の部屋に縦長の窓を設け、外に植えられたアオキの木を小さな景色として見せています。その景色は、手前の部屋からでも視線がスーッと抜けてよく見えてくれます。この窓から隣地境界線までの距離はわずか1.3メートルほど。庭を作れるほどの広さは到底ありません。
けれども、こんな小さなスペースにさえ自然の光や風、雨などは降臨してくれます。この窓は、いわばそんな自然の小さな受容器のような存在です。
ここで作者のセンスが卓越しているのは、腰窓1つだけとか細長―い窓を1つだけ設けるのでなく、あえて腰窓と地窓の2つを設けることで景色を「切った」ところです。小さな景色というものは、遮られたり分断されると不思議なほど実際よりも広く深く見えるのです。
小さな外部の数々、いかがでしたでしょうか。
小さな敷地はもはや難敵ではありません。外と内との小さな連携によって住まいがどれほど豊かになるか、その可能性を提示してくれているのです!
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